韓国の知性、新しい時代を語る

韓国の知性、新しい時代を語る第12回


 「対話:2012年と2013年」掲載にあたって
 昨年末の韓国大統領選挙で民主統合党の文在寅候補を破り勝利した朴槿恵氏は2013年2月25日に第18代大統領に就任、韓国史上初の女性大統領となった。李明博政権時代の社会の「ひずみ」と向き合うことを余儀なくされた朴政権は、国民生活の建直しを重点課題に位置づけ、福祉重視及び中小企業重視の姿勢を打ち出すとともに、科学技術、情報通信等を基盤とした経済成長路線を掲げたが、内閣の構成をはじめ政権人事に難渋するスタートとなった。その後、5月6〜10日にかけて米国を訪れ、7日(日本時間8日未明)にオバマ大統領との首脳会談に臨むとともに、8日には米議会の上下両院合同会議で演説をおこなった。
 また、6月27日から国賓として中国を訪れて首脳会談に臨むことになっている。韓国の大統領が就任後、日本より先に中国を訪れるのは初めてとなることは各メディアが伝えるとおりである。朴政権発足以来、閣僚の靖国参拝問題や「従軍慰安婦」問題など、日韓関係は歴史問題をめぐって深刻な状況に陥っていることは周知のことであるが、あらためて、我々の歴史認識とそこにおける政治の責任が厳しく問われる状況に直面しているといわざるをえない。
 そうした視点をふまえながら、今回の大統領選挙が韓国社会にどのような意味を持つものとなったのかを考察、総括することは極めて重要なテーマといえる。
 今回も、従来からこの欄の記事掲載にお力添えをいただいている仙台コリア文庫主宰の青柳純一氏の協力で、以下の「対話」の掲載が実現した。白楽晴氏をはじめ関係各位そして翻訳の労をおとりいただいた青柳純一氏に心からの感謝を申し上げる。

=解題に代えて=
                                                      訳者・青柳純一
 以下に紹介する文章は、『創作と批評』第159号(2013年春号)に掲載された「対話」の抜粋である。掲載から少し時間を経たが、大部にわたる「対話」の全訳からエッセンスを抜粋した。
 この間の北朝鮮・朝鮮半島をめぐる緊張と4月中旬のケリー国務長官の東アジア三国歴訪、とりわけ中国指導部首脳との会談による情勢の微妙な変化など、今思えば、連日メディアで伝えられた「危機」は何だったのかと思わざるをえない。国際情勢にとどまらず、最近の日本社会の状況を見るにつけ、まさに「分断体制の効果はてきめん」と言える。
 ともあれ、それから約3週間、5月6日〜10日には朴槿恵大統領が訪米。韓米同盟の強化が謳われ、その成果が語られる一方で、土壇場で起きた大統領府報道官の「セクハラ事件」に端を発した解任劇。今後この「事件」がどのような形で朴政権と韓国社会に影響を及ぼすのか。当の報道官が、今回掲載の対談時期に話題を集めていた保守強硬派の代表的論客であることが注目される。
 今回の問題はその「本性」が露呈したともいえる一方、いわゆる「セクハラ問題」にとどまらず大統領側近内での権力闘争の感もぬぐえず、今後の対北朝鮮政策とのかかわりも否定できない。
 そうした意味でも、この「対話」を、この間の朝鮮半島情勢と韓国政治の動向をふまえて、行間も含めて読みこんでいただければと考える。


『創作と批評』対話:2012年と2013年
――金龍亀・白楽晴・李相敦・李日栄
『創作と批評』第159号(2013年春号)から
「対話」討論者
白楽晴(ペク・ナクチョン):ソウル大学名誉教授、『創作と批評』編集人。最近の著書として『どこが中道で、どうして
変革なのか』『文学とは何か、あらためて問う』『2013年体制づくり』などがある。

李日栄(イ・イリョン):韓国神学大学グローバル協力学部教授、経済学。著書として『韓国型ネットワーク国家の模
索』『新しい進歩の対案、韓半島経済』『中国の農村改革と経済発展』などがある。

金龍亀(キム・ヨング):未来経営開発研究院長。著書として『韓国企業支配構造の現在と未来』(共著)、報告書と
して「政府人事の新たなパラダイムとビジョン」「学習国家と国家ビジョン戦略」などがある。

李相敦(イ・サンドン):中央大学法学部教授。2011−12年ハンナラ党非常対策委員、セヌリ党政治刷新特別委員
を歴任。著書として『米国の憲法と大統領制』『静かな革命』『危機に処する大韓民国』などがある。

李日栄(司会):本日の対話では、2012年と2013年の意味と性格を推し量りながら、最近「時代交代」という言葉が
人々のよく話題にされるように、新しい時代とはどういうものであり、韓国社会はどこへ進まねばならないのか、話し
あいたいと思います。また、第18代大統領選挙(以下、大選と略)が終わって2013年になりましたが、その雰囲気は
第13代大選(1987年12月)直後の1988年初めと似ているんではないかと思います。一方はほっと安堵し、他方はと
ても失望しているようです。詩の一句「春来不似春」を借りて、2013年になったのに「まだ来てない」ようだと表現する
人もいます。

 また、青少年がつくって流行らせた「メンブン(メンタル崩壊)」のような言葉が、政治・社会の分野でも広く流行して
いるんではないかと思います。与党側の支持層も選挙には勝利しましたが、それほど欣快な心情ではないようで
す。最近は経済が極めて厳しいと言い、大企業や金融界では構造調整が迫っているという懸念も広がっています。
そうした点から2012年に意味をもたせて解釈することは、2013年を切り開いて希望を生みだしてゆく出発点といえま
しょう。3人の先生方をお招きし、この点について意味のあるお話を交わす場になれば、と思います。みなさん有名
な方なので、私が特に紹介する必要はないようなので、昨年の経験をお話しながら自己紹介もかねていただければ
と思います。

白楽晴:李日栄先生からカミングアウトしてください(笑)。

2012年の総選挙と大選は私たちにとって何だったのか

李日栄:私の紹介をどのようにすべきかわかりません。私の2012年の状況は多少複雑です。昔の話からすれば、
1987年末と88年初めの大選の時期、私は大学院生でした。その当時民主化の熱望は高かったのですが、大選の
結果を見て失敗したという思いが広がり、そこで若い研究者仲間でもう少し科学的な態度が必要だと言って研究会
を作った記憶があります。その時から経済学の専攻者として今まで政策研究をしてきたといえるでしょう。しかし、昨
年4月の総選挙で急に衝撃を受けたような感じがしました。私はふだん、87年体制を越えて新しい秩序に進んでこ
そ韓国経済が進路を開拓できると主張する側でしたが、4月の総選挙をみて既存の野党の力量では問題があると
思いました。そうした状況で新たな勢力による経済革新や政治革新が必要だという論議が広く行われ、その熱望が
安哲秀現象として現れたようです。経済学用語でいえば、「デュオポリ(複数独占ないし二者独占)」という独占体
制、つまり二者が既得権秩序を形成して絶えず政治的な不安定が現れ、こうしたものが経済を改革して革新的な成
長モデルを作りだすのに障害になると考えました。ちょうど安哲秀現象が現れ、その期待が特定の指導者を生みだ
すべきだという熱望につながりました。もちろん不安もありました。システムが備わっていなかったのです。それで、
そうしたものを安定化するのに一助となろうと思い、政務的な介入をしたことはありませんが、安哲秀選対本部の政
策をつくるのに参加して力になろうと努めました。それなりに努力しましたが、ある方からはあまりに安易に考えてた
てついているのではないかという叱責も受けました。それで、実は、私も自己省察をしなければなりません(笑)。こ
のぐらいにしておきましょう。

金龍亀:私にとって国家経営の観点から2012年は少し特別な年でした。この間李明博政権の限界が明らかになっ
て、何よりも公共性の価値が崩れていく状況でもハンナラ党の支持率は常に野党より高かったですね。こうした現
象がよく理解できずに2012年1月になり、私が見るには責任政治のレベルで正常な局面、つまり野党支持率がよう
やく上がっていくのを見ながら、総選挙と大選が国民の立場では正しいものを正しく見て、間違ったものは間違いと
見る選挙になるだろうと期待しました。でも、4・11総選挙の結果は全く異なって現れました。それで、なぜこういう現
象が現れるのか分析しながら、これが12月の大選にはどういう影響を与えるのか熟考しました。一般企業や国家
の公共組織は大型行事を行ったり、何か問題が生じれば、当然それに対する評価を含んだ報告をするものです
が、当時1月まで高い支持率を得ていた民主党が4・11総選挙で失敗したにもかかわらず、まともな報告書を出さず
に時間だけが流れていくのを見て、本当に問題が多いと思いました。野党に問題が多ければ与党も影響を受けると
いう点で、全般的に今回の大選が責任政治のレベルで順調にはいかないだろうと予想しました。そうした観点から
大選の進行過程に注目すると、私が以前政党のビジョン樹立と組織設計をコンサルティングしてきた経験もあり、
今回の大選で成功できる要素とは何かを一度考えるようになりました。第一に、今回の大選の核心は候補の学習
能力だと思いました。第二は、候補を取り巻いている参謀陣の能力です。その能力とは専門性、開放性、拡張性で
す。とにかく本人の学習能力が高く、傘下に力量のある参謀陣を置いた候補が与野党を問わず当選の可能性があ
る、と2012年半ば頃に考えるようになりました。

 ところで、民主党に注目すると、候補が決定される過程で情熱的なビジョンやひたむきな姿が見られませんでし
た。候補が決定した後も、大統領候補ならば党に対する全権をもつため、4月の総選挙に対する評価を含めて、党
の革新方向が出るだろうと思いましたが、結局出ませんでした。そうした流れを見るにつけ残念に思いました。反
面、ハンナラ党から名前を変えたセヌリ党を見ると、とにかく先ほど申し上げた学習能力が選挙過程に相当反映し
ているのが確認できました。多くの政治評論家が語っているように、朴槿恵候補が野党の主張を大幅に摂取してア
ジェンダの多くを本人のものにしたことが、まさに学習能力を示した事例です。選挙の流れを見ると、本人の話に対
して顧客である国民がどのように反応するのか、また野党の主張を国民がどのように受け入れるのか、一日に何
度も点検したんではないかと思えるほど、敏捷な対応をしていると感じました。野党支持者の立場では、李明博政
権が民主共和国の基本を壊して公共性のレベルであまりにも多くの失策をしたため、当然権力が野党に移るだろう
と断定していたのですが、そうはなりませんでした。私は今回の選挙を契機に、特に野党が新たに学習すべきだと
思います。また、学習する方法自体を学習すべきだと思います。

李日栄:金院長がおられる未来経営開発研究院では、大選候補や政党の力量を評価することもしていますか。

金龍亀:国家経営の成功レベルで、企業や公共組織だけでなく与野を問わず候補や政党の成功要因に関心を持
っています。今回の選挙には関与しませんでしたが、2008年2月民主党のビジョン樹立をコンサルティングしたこと
があり、その前には党中央の組織設計について諮問したこともありました。

李日栄:では李相敦教授、何しろマスコミによく出演されて最も名前が知られている方です。お話しください。

与党側の辛勝と野党側の挫折、その原因は

李相敦:2012年が天から落ちてきたわけではないですよね。2007年大選と2008年総選挙でも、いわゆる進歩陣営
は相当挫折したんじゃないですか。ともすると、今よりもっと無力だったと思います。大選に負けただけでなく、総選
挙でもあんなに議席を奪われてしまったので大変な無力感を味わったでしょう。保守の力に乗じて李明博大統領に
なったわけじゃありません。中道・実用を標榜したのに政権初期にそれこそ困難な状況に陥ったので、保守の力を
掲げて克服しようとしたはずみで私たちの社会で陣営の論理が強化されてしまいました。当時、与党側の有力政治
家だった朴槿恵ハンナラ党前代表と李明博政権の関係は、韓国政党史で今までなかったものでした。私が知りあ
いになったのも伝統的な野党側の人士ではないが、政府批判をしてきたためです。そういう人が金鍾仁、尹汝雋、
そして私の三人程度でした。検討して見れば、ハンナラ党は李明博政権が失敗しても何とか持ちこたえてきました
が、そこに参加しないプレーヤーがいて、それが種になって今のようになったんじゃないかと思います。また、呉世
勲前ソウル市長の愚かな行動も作用しました。実際、呉世勲が党を救ったんです。一等功臣です(笑)。朴槿恵前
代表が金鍾仁博士と私を非常対策委員に抜擢し、以前にない試みを行ったのが、2012年の1年間効きめがあった
んじゃないかと思います。ハンナラ党が最低線に落ちこんだのが昨年1月初めだったと記憶しています。その後、内
部葛藤にもかかわらず刷新を通じて再び誕生し、呼応を得たと思います。反対勢力も多かったです。セヌリ党の再
創党過程で克服すべきものは克服し、妥協すべきものは妥協しました。政治とは理想のみを追求するものではあり
ませんから。こうした過程を経て4・11総選挙で善戦し、選挙戦の終盤には運もありました。正統民主党が生まれて
いくつかで助けられ、金容敏の暴言騒ぎもありました(笑)。結局、大選もその延長線上にあったと思います。

 大勢の人が今回の選挙は進歩と保守の大激突であり、保守がそれに勝利したと言いますが、私はテレビ討論の
ような場でこれに異議を提起したことがあります。その論理に従えば、こちら側で誰が出てもすべて勝たねばなりま
せんが、私が見るには、他の候補だったら百戦百敗だったでしょう。朴槿恵という人は朴正熙の娘という点もありま
すが、李明博政権との距離の置き方と以前にはなかった非常対策委員会で内外のヤマ場を克服し、辛勝したと思
います。2012年は単に政党対政党、陣営対陣営だけでは見ることができない要素があると思います。この一年は
私にとっても一生一代の経験でした。

<中略>

朴槿恵政権の「時代交代」は果たして成功するか

白楽晴:2012年大選と1987年大選に関する従来の私の発言を修正し、むしろ両者が似ている点を述べましたが、
その話をもう少し発展させてみましょう。87年大選の結果、当時の民主化勢力はメンタル崩壊状態に陥りましたが、
大きく見れば、?泰愚政権も87年体制の建設を進展させました。公安政局があったし、弾圧事件も多かったし、また
ハナ会のような軍部内組織が厳存するなど、文民政権とはいえない面もありました。しかし、先ほど李日栄教授が
語った三つの面、87年体制の政治、経済、南北関係の三つの面すべてで進展したと思います。特に南北関係の発
展でいえば、歴代大統領のうち最も寄与した二人を挙げろというなら、私は金大中大統領と?泰愚大統領を選びま
す。もちろん、?武鉉大統領の功績も大きいですがね。政治的には弾圧もしましたが、ともかく軍事政権に、全斗煥
式の暴政に復帰するのを止めましたから。国民が止めたのですが、?泰愚大統領も寄与したと思います。経済の場
合、今日とは反対に、当時は経済的主体に自由を与えることが当面の課題でした。朴正熙、全斗煥時代に国家が
統制していたものを自由化することが課題でしたし、これには労働運動の自由も含まれていました。結果的には、
巨大な経済主体があまりにも自由化され、財閥をどのように規制してバランスをとるかが今日の課題になりました
が、当時としては経済的な自由化も含め、三分野のすべてで業績があったと思います。

 さて、朴槿恵政権が少なくとも?泰愚政権のレベルに、時代の大きな流れを受け入れて進んでいけるかどうかを、
この三つの面から点検してみることができそうです。経済の場合は、いまお話したように、課題が変わって今日は経
済民主化、財閥規制などをどれほどやりぬけるか注視すべき問題ですが、引き継ぎ委員会でその担い手がいない
という言葉が聞こえるなど、決して楽観できません。政治の場合は、野党が勝利した時のように「民主主義2.0」とい
うか、そういう大々的な市民参加を実現させるのは難しいでしょうが、最小限、李明博政権下で後退していた点を元
に戻して、民主政権時代の人権と民主主義のレベル程度に維持できるかが関心事ですが、これもそう簡単ではな
いようです。当選者自身が民主主義に対して透徹した信念がある政治家のようではない上に、より重要なことは、
支持勢力内に今回の勝利に絶対的に寄与したと自負して、新政権の成立を機に、いわゆる従北左派を永遠に放
逐しようと気勢を上げる人々がとにかく多いのです。それで、?泰愚大統領が軍部に基盤を置きながらも、軍部が過
度に政治に介入したり、復帰するのを牽制した程度に、朴槿恵大統領がやりきれるのか、これは注視すべき課題
です。次に、南北関係です。金秉準教授が2013年には難しいといって2018年を語る場合、ちょっと漠然とした話だと
私が感じたのは、あまりにも韓国中心の見方だからです。それも政治や行政に集中しすぎた見方だからでもありま
す。韓半島全体の事情をみた上で、なおかつ東北アジアや世界が変化する情勢をみれば、2018年以前に停戦協
定を平和協定にかえなくては、大韓民国全体が多くの面で難しくなると思います。ところで、朴槿恵候補は南北関係
の改善を公約しましたが、平和協定については話していないじゃないですか。信頼プロセスを作っていくとは言って
いますが、果たしてそこまで進展させることができるかわかりません。しかし、当選者が積極的に南北対決を助長す
る勢力の肩をもちさえしなければ、私たち市民が立ち上がり、停戦協定を平和協定にかえる方向で相当な成果を
上げることができるかもしれません。大きな流れがあるので、朴槿恵政権下で全く不可能なことではないと思いま
す。しかし、やりぬくことができるのか、それも簡単ではないようです。万一こうしたことがすべて実現したなら、少し
不十分でも、相当な程度で時代交代したと評価されるでしょう。

李日栄:李教授が一番正確な情報をもっておられるでしょうが、お話しにくい点もあるだろうと思います。現在の引き
継ぎ委員会をみると、かなり節制している印象です。こうした点からみると、期待がなくはありません。ただ一方で経
済面は、経済民主化の公約を消化するには相当度胸が要るように見えますし、財界や官僚側は当面緊張している
が、長期的にみれば、甘く考えているという話も聞こえます。統一・外交面でも、昨日ある方が辞退した事情(2013
年1月12日崔デソク外交・国防・統一分科委員の辞退――編集部)について、憶測が乱舞しています。期待と憂慮
が交錯する時点ではないかと思います。

李相敦:今後首相や大統領府の人事があるでしょうが、最も関心を集めるのは、どんな朴槿恵政権になるかという
点です。これまでなら大抵予測できましたが、とにかく今回は実際、当選者本人の功績が最も大きいじゃないです
か。だから、それだけ自由な面もあるし、選択肢も多いということです。有権者は賢明じゃないですか。2010年6月2
日の地方選挙と昨年4月11日の総選挙は、ほぼ似たような投票率を示しましたが、結果は異なりました。先日の大
選とともに行われたソウル市教育委員長[韓国では公選制]と慶尚南道知事の選挙では、私たちの候補もよくなかっ
たのですが、野党側の候補がもっと悪かったですね(笑)。キャスティング・ボードを握っている中道層の有権者が、
かつての民主労働党出身の候補者に食傷したのは確かです。その代表的な候補者はみんな負けてしまったではな
いですか。これを保守派の勝利とみてはなりません。万事を進歩と保守の枠内でみますが、実際に李明博政権が
不信任されたのは、保守的政策をとったからではないんです。民主主義の法則を黙殺して財政を破綻させたので、
審判を受けたじゃないですか。50代の人々が朴槿恵候補を強く支持したのは、公約のためというよりも、野党側が
文化的に彼らの世代とあわなかったからです。実は、老年層にとっては文在寅候補の公約の方が良いものがたくさ
んあったじゃないですか。年100万ウォン以上の無料医療のようなものです。民主党はあまりにも20〜30代に依存し
すぎたんです。

 朴槿恵政権が成功するか否かは、過去の教訓を生かせるか否かにかかっていると思います。わが国の歴代大
統領の政策中、最も支持率が高かったのは金泳三大統領の時に金融実名制を実施し、ハナ会を解体して全斗煥
と?泰愚を裁判にかけたことでした。大統領の支持率は政権が正義と真実の側に立つ時、確実に上がるのです。朴
槿恵当選者がそうした事例を参考にして政局を運営してこそ、1年半後の統一地方選挙と2016年4月の総選挙とい
う二度の中間評価で支持が得られると思います。私が民主党や野党側の方々と多少異なる点は、南北関係も必ず
何とかしなければならない、そのようには思いません。いつまでに何かができなければダメだ、歴史にそういうもの
はないと私は思います。時代が要求する時点で、自然に進むものでしょ。朴槿恵当選者が語った平和プロセスとい
うのも、「私の任期中に何々を必ずやる」というものではないじゃないですか。プロセスに比重を置き、漸進的に接近
していくと思います。財閥改革も同じでしょう。野党側がすることになれば、とにかく急激な変化があるはずだから、
中間層の有権者は、それよりは信じられる安定した改革を選んだんじゃないかと思います。政権初期に、繰り越さ
れた課題を解決するのは当然だと思います。就任前に、この数年間タブーのようになっていた四大河川問題もでて
くるじゃないですか。朴槿恵政権が、いわゆる守旧勢力にそのまま縛られていくとは思いません。当選者は幾度も
の選挙を経てきた政治家だからです。

「安哲秀現象」が残した教訓

李日栄:ここまで時代交代の意味と朴槿恵政権の今後について話してきました。2012年に起きたことの中で、特異
なのは「安哲秀現象」でした。新しい政治を望む国民の熱望と動きを評価し、整理してみたいと思います。

<中略>

金龍亀:盧武鉉政権期に与党代表が何人変わったかを調べてみたら、およそ12人ほどでした。1人当たりの任期
はせいぜい数カ月です。政治活動は予測性を示せねばなりません。その予測性の枠内でリーダーシップが形成さ
れるのであり、リーダーシップで最も重要なのはリーダーが作るビジョンだと思います。誰かがビジョンを提唱して
人々がそれを理解し、両者間に一体感が生まれる場合、リーダーシップが形成されるのです。現在、民主党の組織
運営はお互いを殺しあう構造です。例えば、集団指導体制からはリーダーシップは生じません。安哲秀教授が政治
はやらないと思ったのに、国民が押しあげて出馬させるほど悲劇的なことはありません。歴史に責任をとる姿勢で
ビジョンを強力に掲げて身を投じる場合、良質のリーダーシップが生まれるのですが、押されて登場するようなリー
ダーシップはもうダメだと思います。リーダーは自分が望んですべきものであり、その中でできる人たちに希望と勇
気、機会を与える政党組織が作られるべきだと思います。私はそうした点から「安哲秀現象」を韓国社会の歴史的
資産とみなすべきだと思います。もちろん、最初に申しましたが、重要なのは学習ですから、安哲秀教授が新たに
学習して新たなビジョンを作り、政治に身を投じるなら、また違ったリーダーとして野党側でそれなりの役割を果た
せるでしょう。

李相敦:今回の大選で野党側は大変な挫折を味わっていますが、実際の投票結果をみれば、30代と40代の教育
を十分に受けた階層は野党側にたくさんの票を入れました。これは意味深長なことではないですか。私たちの側
で、こうした点を重く受け止めるべきだと思います。昨年初め、私は汝矣島に朝早く出かける機会が多かったんです
が、そこに出勤する人々がどんなに多いか。その渦中で、「ああ、ここで私たち側に投票する人が何人いるだろう
か」と思い、挫折を感じました(笑)。そして総選挙の時の経験ですが、中央から地域区をみれば明らかです。とても
裕福な地域や農村は私たちがトップで、朝出勤する人々が多く暮らす地域はすべて負けました。ベッドタウンでは私
たちは完敗でした。実際、韓国の未来は年金で暮らす世代ではなく、そうした人々にあります。今後、朴槿恵当選者
とセヌリ党はこうした点を肝に銘じねばなりません。それでも私が希望を抱くのは、セヌリ党内で寡頭体制がなくなっ
たという点です。また、朴槿恵後を考える場合にも有望株がいます。「安哲秀現象」のようなものを受けいれられる
潜在的リーダーがセヌリ党で育つ可能性が大きいと思います。今回の選挙に負けたらかなり難しくなったでしょう
し、寡頭体制が再び生まれるところでした。

李日栄:政治評論家は一般的に、「安哲秀現象」の核心支持層は中道・革新層、湖南、20〜30代だと言います。組
織と勢力の絶対的劣勢にもかかわらず、一年以上続いたこうした現象は相当特異なものであり、他の国では見い
だしがたいと言っています。しかし結局、路線、組織、リーダーシップ、戦略が全般的に不足して負けたという評価で
す。

白楽晴:実証的な資料はありませんが、安候補自身も文候補との討論で、ある老人が自分の手をぎゅっと握りなが
ら、今度はちょっと変わったらいい、という話をしたと言いましたが、私は李日栄教授が列挙された集団以外に、韓
国にちゃんとした進歩政党があったなら、そこに票を入れたであろう人々も「安哲秀現象」を生みだすのに一助とな
ったのではないかと思います。無党派層といえる若者ではなく、年齢と関わりなく、ハンナラ党と民主党を含む既成
の政治から何の恩恵も受けられずに徹底的に無視されてきたが、安哲秀という人が出てきて新風を巻き起こしてい
るというから、そこに漠然とではあれ、期待をかけた人々も多かったんじゃないかと思います。それが事実なら、安
哲秀候補が彼らの欲求に果たして応えられたのか、問うてみる必要があります。候補者自身の体質やセンス、また
選対本部内の重要人物の感受性に照らすと、選対本部の見方は、本来の安哲秀現象の震源地である20〜30代と
意志疎通して共感する側に焦点を合わせつづけていたのであり、前述した底辺の庶民と意思疎通するには極めて
不十分だったようです。とにかく、安候補は準備がなかったし、組織が不十分でしたからやむを得ない面もあります
が、抑圧されてくやしくつらい庶民生活に対する認識や感受性が足りなかったんじゃないかと思います。

 時代交代の問題に関連して、政権交代と時代交代は区別して点検する必要があると思います。通常なら、同じ政
党の候補者が大統領になれば、それは選手交代であって政権交代ではありませんが、政権交代に準ずる結果が
出ることもあります。四大河川問題もありましたが、李明博政権の様々な失政と不正、真実の歪曲などについて、民
主党政権が誕生した場合に劣らず徹底して調査し、是正措置をとるならば、それは選手交代であると同時に、政権
交代に匹敵するといえるでしょう。他方で、時代交代と言えば、李日栄教授がおっしゃった通り、2013年体制論は87
年体制がこう着状態あるいは末期的な混乱状態に陥っているのを清算して新しい体制を出発させよう、という趣旨
でした。87年体制が混乱に陥った重要な理由として、一つは経済面で朴正熙時代以来の財閥依存の経済体制が
ほぼ統制不能の状態に陥っており、もう一つは韓国の守旧勢力の法的・制度的な土台をなす停戦体制です。停戦
体制というのは、国際的に公認された国境がない状況です。そのため常に安保不安が実際に存在し、それで、これ
を悪用して不当な既得権を守って広げようとする勢力が盛える客観的な土台になるのです。だから、これを平和協
定にかえることは、単純に南北関係の問題ではなく、韓国内の政治改革や経済改革、また市民社会の健全な発展
にも関鍵となる要素です。ひとえに、南北問題が国内問題よりもっと重要だから停戦協定問題に執着するのではな
く、また、これはいつまでにかわらなければ何もできない、というわけではありませんが、この問題を朴槿恵政権が
ちゃんと解決できないならば、結局はセヌリ党内で守旧勢力を制圧するのも難しくなるということです。事態が順調
に解決される場合はいいですが、何かの障壁にぶつかった場合、結局は家ウサギと同じようにならざるをえない状
況が来る憂慮があります。

李相敦:私は若干違う考えです。わが国の有権者のうち、停戦協定を重要だと考える人はそう多くないようです。

白楽晴:その通りです。今回の選挙でもあまり重要なイシューではありませんでした。国民が特に関心をもっている
イシューだから重視するのではなく、国民が関心をもっている経済民主化とか福祉社会、民主主義、社会の公正性
と道徳性の回復のような問題を解く上で、これが隠れた鍵ではないかと申し上げたのです。

李相敦:よく聞く話ですが、不戦協定や平和協定の後、もっと大きな戦争がいつも起きたじゃないかということです。
パリ協定とベトナムの事例がそうです。逆に、こうしたことを強調しすぎると、いわゆる守旧勢力をより助けるんでは
ないかと思います。外交と国内政治は別個ではないかと思います。国内改革も別個だと思います。政治家の中で
も、外交と内政の方向が相当違っていた場合もたくさんあるじゃないですか。

李日栄:2013年の時点で重要な課題として、白先生は経済や福祉の再編と平和体制がともに考慮されねばならな
いとお考えで、李相敦教授はそれぞれ固有の領域があるので、時代交代の意味といえば、法治と民主主義の問題
により力点を置かねばならないとお考えですね。

真の時代交代の条件と核心課題
<中略>
李日栄:かなり時間が経ちましたので、最後に一言ずつお願いします。

白楽晴:政府の役割が大きいので、そこに関心を寄せて批判し、見守ることも重要ですが、各自が身を置く場で私
たち自ら社会の基礎体力を育てていくことに、より力を注がねばならないようです。公共性を含めて市民社会の力
量を強化するのも、その一部です。また、専門性を掲げる人々が自分の専門性を強化すると同時に、専門家として
の矜持と自尊心を守ることが重要であり、これも李明博政権下で無残に壊されたものの一つだ、と私は思います。
こうしたことを一般化して語ることはできませんし、各分野で市民自らが進んでやるべきことでしょう。そうした意味
で、停戦協定を平和協定にかえることが重要だからといって、あらゆる人が平和協定の締結運動に立ち上がる必
要はなく、当然国政運営においても、李相敦教授がおっしゃる通り、各分野の特性と独自性を尊重しながら、着実
に進んでいかねばなりません。

 ただ、私が最後に申し上げたいのは、国政のグランド・デザインを描く立場とか、社会現実を分析する学者の立場
では、やはり私たちの国内問題というものが、南北関係といかに深層において連結しているのか、表面に現れては
いなくても、どれほど深く関連しているのか、を洞察することが緊要ではないかと思います。仮に、87年体制の限界
を語る場合でも、韓国が分断社会であり、特に1953年以後、戦争がとにもかくにも終わった状態が固まったものとし
て、それを私は分断体制と呼びますが、反民主的で非自主的な要素がすべてを主導する、一種の体制が成立した
という認識が必要なようです。87年の民主化と世界的な東西冷戦の終結により、そうした分断体制が揺らぎはしま
したが、今日も依然として厳存し、今回の選挙を通じて、分断体制は本当に力が強いということをあらためて実感す
ることができました。私は変革的中道主義ということも主張してきましたが、その話まで詳しくする時間はありません
が、簡単に言えば、分断体制とは何かがわかる中道主義が変革的中道主義といえます。分断体制とはどんなもの
であり、どれほど力が強く、それでもどういう部分が脆弱であり、克服の道があるのかということを知って、その弱点
を正確に検討しうる中道路線、それが必要だと思います。先ほど、下手に平和協定の話をするのは守旧勢力に力
を与えることもありうるとおっしゃいましたが、実際、私たちの社会で進歩を志向するという人々が、そうした逆作用
を果たすこともあります。本人の意図とは関わりなく、分断体制をより固めることもありますが、だから、分断体制を
克服するには中道がより力が強いと考えるのです。

李相敦:朴槿恵政権の成立を、分断勢力の勝利だとおっしゃっているのかもしれませんね(笑)。今回の選挙は候
補者本人の不正がなかったし、現政権が助けるどころか、妨害さえしなければ幸いという状況だった点で、政治史
では特異な選挙だったと思います。そこに込められた有権者の意志を、朴槿恵政権は今後抱えていかねばならな
いと思います。安定的な改革と刷新を通じ、私たちの社会を変えねばならないと思います。野党側におられる方々
も、同意できる部分については力を貸してくださればと思います。

金龍亀:私は朴槿恵当選者にぜひ成功してほしいと思います。今回の大選で当選者が活用した現場学習能力、つ
まり顧客である有権者の要求を把握しようと努めた姿勢を最後まで維持しながら、国民が何を望んでいるかを任期
終了まで忘れなければと思います。また、民主党をはじめとする野党側は、2012年二度のチャンスを逃したことを、
国民が与える最後の学習機会とみなすように願います。実際、野党が健康でちゃんと運営されてこそ、朴槿恵政権
もきちんと役割を果たせるのですから、2012年の経験に基づいて野党も健康になり、正しいリーダーシップを育むの
が朴槿恵政権を助けることだと思います。また反対に、朴槿恵政権の成功が野党を一つのビジョンをもとにする中
身のある、挑戦的な政党に作るだろうし、今後野党の執権可能性とその後の成功可能性をやはり高めてくれるだ
ろうという自信をもてばと思います。チャンスは常に後姿だけ見せると言いますが、こうした教訓を、野党であれ与
党であれ、忘れてはいけないでしょう。特に、民主党は自ら何がわからないかを悟る無知の学習からまともに始め
るというなら、「禍転じて福となす」の機会を掴むこともできるでしょう。20〜40代がこれほど高い支持率を示すのは、
世界的にも多くない未来の資産でしょう。経済的な実利だけではなく価値に基盤を置いた情熱を抱いた人々、青年・
中年世代の国家経営に対する高い眼目が、私たちの未来をどうあれ牽引していくだろうと思います。

李日栄:一点だけ、付け加えます。朴槿恵当選者が選挙結果の出た後、支持者にこのようなメールを送ったといい
ます。「本当に感謝します。今回の選挙で私を支持して下さり、忙しい中でも投票して下さったその志、よくわかって
います。民生の苦労、葛藤と分裂の政治、私が一挙に終わらせることはできなくても、少しでも緩和して改善しなが
ら、今日より良い明日を創っていきます。私を支持されなかった方々の意志も謙虚に受け入れ、野党を国政の真の
パートナーとして考えます」。このようにしてくださればいいでしょう。そう期待しながら討論を終えます。お疲れ様でし
た。ありがとうございました。

                   (2013年1月15日 セギョ研究所)