小島正憲の凝視中国

暴動情報検証:2011年5月&読後雑感:2011年第12回 


暴動情報検証 : 2011年 5月
07.JUN.11
1.〜3.は検証済み。4.〜13.は未検証。
暴動評価基準は文末に掲示。


1.5/12、13の両日、江蘇省南京市和燕路で、会社閉鎖に不満の従業員1000人余がデモ。
                                                    暴動レベル0。
・マスコミ情報 : 5/12、13の両日、南京市玄武区恒嘉路にある華飛彩色顕示系統有限公司の従業員1000人余が、会社閉鎖の際の退職金などに不満で、市政府に陳情と抗議を行うため、和燕路をデモ行進した。市政府は警察1500人を出動させ、道路を大型コンテナで封鎖し、これを紅山路付近で強制的に解散させようとしたためデモ隊と衝突、デモ隊側の数人が負傷、数人が拘束された模様。この騒動のため南京市中心部は一時、交通が麻痺した。

 
            当日の様子(ネット上から転載)

・実情 : 華飛彩色顕示系統有限公司はブラウン管を製造会社であり、最盛期は2700名(7000名という報道もある)ほどの従業員を抱える大工場であった。しかしテレビなどが液晶化に向かい、ブラウン管の需要がまったくなくなり、昨年末で累積赤字が22億元、負債総額が13.5億元となった。今年3月、華飛公司は営業を中止し、会社閉鎖に伴う従業員との交渉に入った。会社側は、勤続年数を基準に、1年当たり2960元を支払うと発表したが、従業員側はそれに不満で会社側との交渉の場を求めていた。しかし会社側がそれに応じないため、市政府に陳情するため、デモを行うことにしたという。

5/13以降、市政府はこの争議に介入し、5/24までに会社側の提案を受け入れる従業員については、特別に1.5万元、勤続年数によって1年当たり500元を加算し支払うことを約束した。

           

私が調査に行った5/25時点では、華飛公司には人影は少なかった。門前の告示版を見ていた従業員に様子を聞いてみると、工場内にはほとんど人がいないと言い、「市政府が入ってきたので、卵と石が喧嘩するような状態になってしまい、従業員はバラバラになってやめていった」と話してくれた。

・私見 : 昨年来、会社の閉鎖時に、会社側と従業員側が揉めるケースが多く見られる。会社側が労働契約法に準拠し閉鎖しようとしても従業員側が納得しない場合も多く、代表者がそれを避けるために行方をくらます、つまり夜逃げすることも多い。下記もその一例であり、残された従業員たちは、多くの場合、所轄政府や労働局に陳情・抗議に行くことになり、政府側は対応に苦慮している。

※4/13、上海市長寧区愚園路にある上海奥客文化伝播有限公司の代表者夜逃げ。

上海市長寧区愚園路の緑地商務大厦に事務所がある上海奥客文化伝播有限公司では、4/13朝、従業員が出社したところ、事務所の中は泥棒に荒らされたように散らかっていた。すでに金目のものはまったくなく、前夜のうちに、代表者が夜逃げしたことがわかった。残された19名の社員は3月から給与を受け取っておらず、途方に暮れている。

 
                夜逃げ後の室内の様子

※中国政府の人力資源・社会保障部は、このほど2010年度の企業の賃金未払いが、判明しているだけでも99億5千万元(約1254億円)に達し、その対象となる従業員数は502万1000人と発表。

2.5/04、上海市政府前で、数千人の民衆が抗議。 暴動レベル0。

・ネット情報 : 5/04、上海市人民大道にある市政府前で、さまざまな要求を掲げた民衆数千人が抗議活動を行った。中には新疆人もいたという。また同日、普陀区の区政府前でも100人近い住民が強制立ち退きに抗議して集まった。

・実情 : 市政府周辺の人に5/04の様子を聞き込んだところ、たしかに当日、200名ほどの人が陳情に来たし、秩序維持のため警察が出動したが、数千人というのはオーバーであるという。また陳情の内容もいろいろで、強制立ち退きの補償費や市政府の政策への不満などがあった。また一部では新疆の人たちが抗議に来ていたと報じられていたが、それは新疆人ではなくて、かつて新疆へ建設兵団として派遣され、その地で20〜30年働いていた上海人が、上海に住み続けていた人たちと同様の医療保険や年金などの待遇を求めて抗議に来ていたのだという。当日、実際に抗議をしていた人は200人ほどで、そのとき野次馬も含めると市政府前には1000人ほどの民衆がいたという。

また市政府は、月・水・金と陳情者の受付を行っており、いつも100人前後の民衆がそこに来ているという。

3.5/13、江蘇省連雲港市灌雲県侍荘郷の立ち退き現場で爆発事故、3人死亡。 暴動レベル0。

・マスコミ報道 : 5/13午前、連雲港市灌雲県侍荘郷陸荘村で、地元政府が村民の陸増羅の家屋を強制的に立ち退かせていたところ、ガス爆発が起き、本人と家族の3人が死亡した。マスコミでは抗議の自殺と報じた。

・実情 : 同集落では昨年、その一帯の村の4〜500世帯が開発のため強制移住させられた。昨年11月、補償金などに不満の村民が服毒自殺しており、強制立ち退きは一時中断していた。そこには12〜3戸が移住反対で居残っており、今回の事件はその中の一軒で起きた。陸増羅が強制立ち退きに頑強に抵抗したので、立ち退き実施者との間で殴り合いとなり、殺された模様。その後、その付近にガソリンが撒かれ、証拠の隠滅が図られたのではないかという。なお、その後、地元政府から陸一家に弁償金160万元が支払われたという。

 
            爆発のあった場所

・私見 : 灌雲県侍荘郷陸荘村の事件現場には、臨時に建てられた家屋のようなものが10軒ほど建っており、陸増羅の家屋は明らかに補償金増額目当てのような臨時建造物であった。そこにはガス爆発の形跡はなく、ガソリンで焼け焦げたような跡が残っていた。道端で瓜を売っていた老婆に聞いてみたところ、「私も土地を取り上げられたので、今では少し離れたところで土地を借りてこの瓜を作っている。陸さんは小さい息子の分まで生活保障をのぞんでおり、ちょっと欲が深すぎた」と話してくれた。これは土地収用で大儲けを企む地元政府の役人と、農民の欲ボケ・ごね得が生んだ悲しい事件である。

灌雲県には超高層マンションがあちこちで建設中であり、超豪華な県庁舎、都市計画館、博物館などが国道沿いにズラリと並んでおり、土地売却収入財政で成り立つ見本県のように見受けられた。

4.5/05、四川省遂寧市射洪県で、中学校教師が殺人犯と誤認され逮捕、同僚ら1万人が抗議。
                                                     暴動レベル0。

・ネット情報 : 5/04、遂寧市射洪県射洪中学の教師の余輝氏が警察に殺人犯として誤認逮捕された。逮捕時に余氏は暴行を受け、重傷を負った。回りにいた教師たちや民衆が制止に入ったが、警察はまったく相手にしなかったという。100名ほどの同僚教師たちが、県政府までデモをして、事態の徹底調査を訴えた。翌日、当局は誤認逮捕であったことを認めたが、同僚教師や民衆は警察の厳重処分を求め、再び県政府にデモを行った。その数は1万人に及んだという。なお、公安局が当該警察官の職務停止を発表したので、デモ隊は夜11時には自主的に解散した。

5.5/11、湖南省衡陽市衡東県で交通警察の暴力に民衆1000人が抗議。 暴動レベル1。

・ネット報道 : 5/11午前7時40分ころ、衡陽市衡東県の県城衡岳北路と交通路の交差点で、取り締まりに当たっていた交通警察が、退役軍人の曹氏を無免許運転と勘違いし、バイクを没収しようとした。それに抗議した曹氏を交通警察が殴打したので、近くで見ていた民衆が集まって抗議をした。その数はすぐに1000人ほどになり、パトカー2台をひっくり返すなどの騒ぎとなった。なお曹氏は意識不明となり、病院に運び込まれた。

なお衡陽市では、交通警察がささいな交通違反をみつけて罰金を取ることが多く、取り締まりが彼らの金儲けの手段になっているとうわさされており、年収が10万元に及ぶ者もいるという。

6.5/13、甘粛省天祝チベット族自治県の農村信用社で爆発事件、49人負傷、19人重傷。
                                                  暴動レベル0。

・マスコミ報道 : 5/13、天祝チベット族自治県の金融機関の農村信用社で、銀行の5階会議室に元職員が手製爆弾を投げ込んだため、会議中の行員のうち、49人が負傷。うち19人が重傷。この元職員は、4月に不正行為が発覚し解雇されたことを恨んでいたという。

7.5/26、江西省撫州市臨川区の政府・検察庁舎で連続爆発。 暴動レベル1。

・マスコミ報道 : 5/26午前、撫州市臨川区の政府・検察庁舎などの3か所で連続爆発事件が起きた。その後の警察の調査で、元農民の銭明奇容疑者が地元政府の土地収用に不満で自爆した模様。巻き添えで2人死亡、6人が負傷。自爆した銭容疑者は自らのブログで、「政府の違法な立ち退きで、巨額の損失を被った」と書き込んでおり、報復が目的であった模様。

 
             爆発現場(ネット上から転載)

8.5/24〜31、内モンゴル自治区シリンホト市などで、モンゴル族がデモ、治安部隊と衝突。
                                                   暴動レベル1。

・ネット情報 : 内モンゴル自治区シリンホト市郊外で、モンゴル族の遊牧民や学生ら数百人と治安部隊300人の衝突で、モンゴル族ら40人以上が拘束された。衝突は遊牧民や学生らが数百人、治安部隊が300人以上と大規模だった。負傷者がいるかどうかなどは不明。学生らが24日に数千人に及ぶ大規模な抗議行動をしたと伝えられた市内では、治安部隊と軍が道路などを封鎖。学校では、学生が外出しないよう週末も授業を続けているという。その後、ネット上などで、内モンゴル自治区の区都フフホト市で30日に抗議行動をするよう訴える呼び掛けも出回ったが、同市内の大学などの出入りが禁止になったりして、武装警察の厳戒態勢を敷いた結果、大きな騒動は起きなかった。抗議行動は、遊牧民のひき逃げ事故死に対する当局の対応への不満がきっかけとされている。内モンゴル自治区党書記は将来の党総書記と目されている胡錦濤氏直系の胡春華氏であり、学生と直接対話し事態の沈静化に努めているという。          

・私見 : モンゴル族のデモは、チベット族やウイグル族の暴動レベル5級の大暴動とは違い、今のところ、「漢族の横暴→モンゴル族の漢族への復讐・略奪・暴行→モンゴル族への大弾圧」という最悪の事態にはなっていない。これは政府側が早期に万全の警戒態勢を敷き、暴発を未然に防いだという見方もできるが、他の要素も十分に考えられるので、慎重にウォッチングを続け、続報をお届けする予定である。

9.5/28、広東省恵州市古塘オウ工業区にある米中合弁企業で従業員1000名余がデモ。
                                                 暴動レベル0。

・マスコミ報道 : 5/28、恵州市にある米中合弁の唐徳電子有限公司で、工場閉鎖に伴う補償金が不満の従業員1000名余がデモを行った。参加者らは問題が解決しなければ、広州市の米国総領事館に抗議に行くと話している。なお当企業は、電話機や音響設備などを生産していた。注)古塘オウ:オウは土へんに幼
 
    従業員のデモ (ネット上から転載)

10.5/30〜31、天津市塘沽区で、ウイグル族と回族が衝突。  暴動レベル0。

・5/30、天津市塘沽区で、回族の経営する飲食店がウイグル族に襲われ、店舗などが破壊された模様。数百人の武装警察が出動して、警戒に当たっている。回族側は犯人のウイグル族を逮捕するように、派出所に抗議。

11.4/12、四川省成都市新都区龍城鎮で、土地問題を巡り警察と住民1000人余が衝突。
                                                    暴動レベル1

・ネット報道 : 4/12午前、成都市新都区龍城鎮瑞雲区の住民1000人余が、立ち退きを巡って、その補償費が少なすぎるため県政府に抗議に行ったところ、武装警察がバス20台あまりで駆けつけ、抗議していた住民を殴ったりして解散させた。20名ほどの住民が警察に連行され、4名がその後も拘留されている。その他多くの住民が逮捕を怖れて帰宅せず身を隠しているという。

12.4/20、四川省重慶市江北区魚嘴鎮楼房村で土地収用を巡って、村民と警察が衝突。
                                                  暴動レベル2。

・マスコミ報道 : 4/20、重慶市江北区魚嘴鎮楼房村で、現地政府による土地収用をめぐって警察や暴力団風の男たち1000人余が村を襲い、村民に暴行を加え、村民30人以上が重軽傷。事件発生後、村民数千人が鎮役場に押しかけ、事態の究明と実行犯の処罰を求めた。重慶市は内陸部における最大級の港の建設を計画しており、魚嘴鎮楼房村の土地はその建設区域にあたり、収用対象となっていた。政府からは2008年度に補償金額が提示されていたが、あまりにも低額なため村民との間で、合意には至っていなかった。

13.4/22、北京市房山区青龍湖鎮で、工場取り壊しに反対の工場従業員50人が火炎瓶で闘争。
                                                     暴動レベル0。

・マスコミ報道 : 4/22、北京市房山区青龍湖鎮にある「羅之星」と「興華コンクリート」の2社の従業員50名ほどが、「違法建築」という理由で、取り壊しにきた政府関係者や500人ほどの作業員を相手に、火炎瓶などを手にして反抗した。双方のにらみ合いは数時間続いたが、結局、政府側があきらめ、その日は撤退したという。その後、2工場は停電、断水状態に陥っている。

※中国政府は今年1月、住民の強制移転を禁じ、移転の是非を地方の司法当局の決裁に委ねるようにとの新条例を出した。しかし強制収容とそれにまつわる事件が後を絶たず、5月下旬、国務院は地方政府に新条例の実施状況を調査するように命じた。

≪私の暴動評価基準≫
暴動レベル0 : 抗議行動のみ 破壊なし
暴動レベル1 : 破壊活動を含む抗議行動 100人以下(野次馬を除く) 破壊対象は政府関係のみ
暴動レベル2 : 破壊活動を含む抗議行動 100人以上(野次馬を除く) 破壊対象は政府関係のみ
暴動レベル3 : 破壊活動を含む抗議行動 一般商店への略奪暴行を含む
暴動レベル4 : 偶発的殺人を伴った破壊活動
暴動レベル5 : テロなど計画的殺人および大量破壊活



読後雑感 : 2011年 第12回 
10.JUN.11
 中国国務院弁新聞公室は、5/04、インターネットの情報管理、つまり監視を強化するために、傘下に国家イン
ターネット情報弁公室を創設したと発表した。新組織は、IPアドレスの配分やドメイン名の登録管理、ウェブサイトの
登録などについての監督、違法なサイトを調査、処罰する権限を与えられているという。

 また中国国防省は、5/25、インターネットの安全防護水準を上げるため、「ネット藍軍」と呼ばれる組織を人員
解放軍に創設したことを明らかにした。

 そのような中で、5/19、中国で「ネット検閲の父」と呼ばれている北京郵電学院の方濱興学長が、武漢大学で
講演を行っているときに、学生から生卵と靴を投げつけられるという事件も起きた。このタイミングに合わせたよう
に、最近、中国のネット事情を分析した本が数冊刊行されている。今回はそれらを中心に紹介する。

1.「ネット大国中国」
2.「中国ネット革命」
3.「中国ネット最前線」
4.「自壊する中国」
5.「蒋介石が愛した日本」

1.「ネット大国中国」  遠藤誉著  岩波新書  4月20日
   副題:「言論をめぐる攻防」
   帯の言葉:「4.5億人の“網民”の力とは  ネットは“民主化”を実現するのか?」

 遠藤誉氏は、はじめにで「チュニジアから始まった民主化革命は、エジプト、リビアなど中東イスラム圏の専制政
治国家を次から次へと伝播し、世界を驚かせた。注目すべきは、長期にわたって続いた独裁体制を倒したのは武
力ではなく、インターネットだったということである」と書き、ネットの強大な力を評価している。しかしながらこの影響
が中国にも及び、「4億5千万人に及ぶ中国の網民が、横につながってネットパワーを発揮し、ネット空間において
第2の天安門事件を起こしてリアル空間に飛び出す勇気を与えるのではないかという、日本を始めとした西側諸国
の“期待”は、少なくとも中国茉莉花革命に関しては裏切られるにちがいない」、「“中国茉莉花革命”は成功しない。
いやそもそも成立しない」と予測している。

 遠藤氏は最終章で、予想通り「中国茉莉花革命は不調に終わった」と書き、「そもそも今の中国で“革命”という形
での民主化運動が生まれ政府転覆に民衆が立ち上がることはあり得ない」と主張している。そしてその論拠として、
中国高官や若者たちの言葉を次のように紹介している。

・ソ連崩壊から中国が学んだものは、「社会主義国家体制を維持するためには経済強国にならなければならない」
と言う教訓だ。そして今や、中国は世界第2の経済大国になった。これを倒して、現政権の代わりにこの中国を統
治し持続的発展を実現できる他の党が準備されているだろうか。中国人民はそれがわからないほど愚かではな
い。

・中国は「一人の人間による専制」を長く続けないように、国家主席は最長2期とした「集団指導体制」を敷いてい
る。中国共産党政治局常務委員の中では、対立意見もよくあり、それが「独裁」を回避させている。この点で中東の
独裁国家とは大きく異なっている。

・民主化で金持ちになれるなら、民主化も悪くないかもしれない。しかしその可能性は低く、みんなが貧乏になるぐら
いが関の山だと思う。

・貧富の差や不平等は不満だが、改革開放前に比べたら全体的に裕福になっている。中国人であることに誇りを
待たせてくれたから、その政権を倒そうとは思わない。

 私もこの遠藤氏の主張と、同じ見解である。ただしそれは中国政府が中国人民に、「中国は大国」、あるいは「チ
ャイニーズドリーム」の幻想を与え続けている期間のみであって、「バラマキ行政」ができなくなったとき、あるいは
「バブル経済」が崩壊したときは、それが政権の転覆につながる可能性は大であると考えている。この点について
は遠藤氏も、「中国共産党は体制を維持するために経済発展を重視しているが、必ずどこかで経済成長はピーク
を迎えて、減衰するときが来るだろう。そのときにどうするのか。今回の取材の結果は“いつか来るべき危機”を予
感させるのに十分であった」と書いている。

 この本で遠藤氏は、グーグル撤退、ネットの力などについての詳細な分析を試みている。その中で中国政府がネ
ット上に「意見領袖」という層を育成していることを、「これは驚くべき事である。管理・監督あるいは検閲から、意見
領袖を通じて世論を誘導する方向に持って行こうという方針転換。抑圧ではなく、精神のコントロールと、ネットの匿
名性を活かした“偽のネット世論”を形成して、“中国の庶民の世論”として位置づけるという作戦なのである」と書い
ている。また尖閣諸島問題に関して、ネット上で展開された論議と、それにより政府がかなり影響を受けた姿など
も、書き込まれている。

 遠藤氏は社会科学院情報化研究センターの「中国網状報告」に、「ネットはやがて“言論の自由”、“社会の平等”
と“政治の公開”を可能にする」という文言があることを紹介し、「こういった考え方はいま、中国のネット界ではかな
り普遍的なコンセンサスを得つつあり、“半直接民主”および“参画型民主”を特徴とする“ネット民主”は“中国式民
主”実現への漸近的役割を果たしているという論理が支配的である」と述べている。

2.「中国ネット革命」  石平著  海竜社  5月28日
    帯の言葉 : 「中国で、ジャスミン革命は起こるのか?」

 石平氏は、「2011年に入ってから勃発したチュニジアやエジプトでの革命によって、“革命の利器”としてネットの
力は見事に証明された。特にエジプトの場合、1月25日から始まった民衆の反乱が、わずか18日間で30年間も
続いた独裁政権を倒したという実績は、独裁体制というものの意外な脆弱性を示したと同時に、インターネット時代
の新しい“革命戦略”の見本を提供してくれた」と書き、「いずれインフレによる物価の高騰がさらに進み、あるいは
不動産バブルの崩壊に伴う経済の破綻が生じた時には、散発的な騒乱や暴動もやがて民衆による広範囲の大反
乱に発展して、チュニジアとエジプトで見られたのと同じ光景が再現されるのではないかと、元中国人の筆者として
は、そう思い、かつ期待もしている」、「ネットでの連帯による反乱となれば、独裁政権が事態を把握して対策を取る
前に、反乱はあっという間に燃え広がり、見る見るうちに政権の対応可能な範囲を超えた大規模な民衆運動となっ
て、独裁政権を一気に窮地に追い込むことができるのだ。今回の“エジプト18日革命”が示したものはまさにそれで
ある」、「中東革命を例にとった、このような“新型革命”への考察を踏まえて、現在、世界最大の独裁国家である中
国に目を転じてみると、今の中国もまさに、次のチュニジア、次のエジプトとなる可能性が最も高い国となっているの
ではないかと思う。というのも、今の中国の国内状況とその直面している国内諸問題は、革命が起きる前のチュニ
ジアやエジプトと状況がよく似ているからである」と書き、「中国にもいよいよ革命の時代が訪れようとしている」と主
張している。

 この石平氏の主張は、上掲の遠藤氏のものとは、ネットの影響力を高く評価する点では同じでも、結論はかなり違
う。私は実際には、中国人民が「改革開放の果実を味わっている間」は、現状の転覆を望まないと見ている。したが
って「いよいよ革命の時代が訪れる」という事態は、石平氏の希望的観測に過ぎないと思っている。

 石平氏はネット上で、腐敗を暴かれた共産党幹部が失墜していく例をたくさん取り上げ、結果として汚職幹部たち
が疑心暗鬼に陥っていると書いている。さらにネット論壇に登場している有名人たちを紹介しているが、彼らはいず
れも反骨精神たくましく、上掲の遠藤氏の言う「意見領袖」とは思えない。しかしネット上では、一般社会で日常的に
起きているミクロの問題については華々しく議論が行われているが、政策などマクロ面での提言は少ないし、盲点
を鋭く突くようなものはほとんどない。結果としてこれが世論誘導になっているような気が、私にはする。

 また石平氏は東日本大震災に際して、中国ネット世論上で起きた「日本同情論」を紹介し、それを「中国ネット世
論の地殻変動」と書いている。

3.「中国ネット最前線」  北海道大学東アジアメディア研究センター・渡辺浩平編著 蒼蒼社 1月5日
   副題 : 「“情報統制”と“民主化”」
   帯の言葉 : 「中国人の本音はインターネットでわかる!」

 編者の渡辺浩平氏は、序で「なぜインターネットか」と題し、「ネットの持つ管理の難しさゆえ、ネットは民意をかな
りの程度反映するメディアとなったからである。つまり、中国の人々がいま何を考えているのか、ネットを通じて理解
できるのである」、「ネット世論が政策決定に影響」していると書き、「ネット世論の背後には、権力が狼狽することを
楽しむ庶民感覚を含めて、人々の理性化できない情念や怨念が横たわっている」と述べている。しかしこのネット世
論が、民衆に社会を転覆させるような行動を起こさせるに至るかどうかについては、言及していない。

 著者の一人の高井潔司氏は、「いまや中国当局はネットを巧みに管理できる立場に立ちつつある。反体制の
人々をも利用して、中国の“インターネット民主主義”が、西側のブルジョワ民主主義よりも優れた民主主義と主張
するところまで来ている。まさに“官民の良好なコミュニケーション”を演出する「ビッグブラザー」の誕生とも言えるか
もしれない」と書いている。これは傾聴に値する見解である。

 安江伸夫氏は、尖閣諸島事件での日中双方のネット世論の状況を詳細に分析しながら、「ネットは民衆にとっても
当局にとっても、伝統メディアにはない社会的機能を補完しているのである。すなわち社会にある不満を共有し、情
報発信の大衆化に貢献し、当局に改善を促す。権力の腐敗を追及する。災害や事件、経済の動向を報じ民衆に警
戒を促す、といった機能である。今の中国では当局が民衆の声をある程度聞きながら政治を行っていく時代になっ
ている」と書き、「彼らのこの声を、次はいかにして中国が実際の行動に結び付けて行けるかどうかである。だが、
彼らが置かれている環境は厳しい。…日本の社会には、彼らを支援するという使命があるはずである。そのために
は、中国の民衆の不満をそらす。反日デモに走らせる。巡り巡って日本の右派を勢いづける。という悪循環を絶ち
たいものである。我々は少なくとも中国のネット世論と共産党の硬直化したメカニズムを知るべきであろう」と書いて
いる。これまた鋭い指摘である。

 古畑康雄氏は、「一部のオピニオンリーダー(意見領袖)のツイッターのフォロワー(意見をチェックする人)の数は
万を超え、ネットユーザーに対する強力な影響力や扇動力を持っている」と分析し、「彼らを中心にした世論形成層
の活躍が、様々な社会の不正の告発につながった」として、「山西省のレンガ工場での強制労働事件」などを上げ
ている。私もこの意見には賛成であるが、私はこのレンガ工場での強制労働事件におけるもっとも重要な問題は、
それらの工場がほとんど無許可営業つまりモグリであったことであると考えている。ところが当時、その角度からこ
の事件を取り上げたネットは皆無であり、ほとんどが悲惨な奴隷労働というミクロな面に集中し、中国には多数のモ
グリ工場が公然と存在している実態こそが問題であるというマクロの視点をかき消してしまっていた。私はこれがま
さに「意見領袖」の役割ではないかと思っている。また今年に入ってやっと人手不足問題がメディアやネットで騒が
れ始めたが、一人っ子政策やミスマッチなどにその原因をもとめるものばかりで、無数のモグリ工場に人手が吸収
され尽くしているという論はまったくなかった。この深刻な事態にだれも気付いていないのである。否、話題に浮上し
ないので気付かされていないという方が本当かもしれない。つまりマクロ面からの本質を突く議論を封じておいて、
「意見領袖」たちがミクロ面をかまびすしく論じているということなのである。

 なお古畑氏の「ネットからの中国情報の獲得法」は、たいへん参考になる。今後私も、この情報に基づいてニュー
スを検索してみたいと思う。また福島香織氏の「中国のインターネット統制とそのかいくぐり方」も、ITには素人同然
のわたしにはとても面白かった。

4.「自壊する中国」  宮崎正弘著  文芸社文庫  6月15日
   副題 : 「ネット革命の連鎖」
   帯の言葉 : 「ネットによる“民主化ドミノ”襲来!?」

 宮崎正弘氏は、「2011年1月、チュニジアの独裁政権が倒れた。同年2月、こんどは中東の大国エジプトでムバ
ラク政権が倒壊した。いずれもネット社会、とくにツィッターとフェイスブックの活用により民衆が抗議デモを組織した
事が大きな力となった。中国共産党はこの出来事に震撼した」と書き、「すでに胡錦濤政権がレイムダック入りし、
次期習近平政権は軍隊優先という“軍高党低”型の現状では、むしろ反主流の野心家が民主化デモを煽り、これを
梃子に活用して北京に乗り込み、政権を簒奪するという政変、まさに明の太祖朱元璋が白蓮教徒の乱という騒擾を
活用して近衛兵を動かして政権を強奪したように、中国四千年の歴史は黄巾党の乱で劉備が、紅巾党の乱で某々
が新しい王朝を開いたパターンが繰り返されるというシナリオがますます濃厚となったのではないか」と結んでいる。

この本は、2009年9月に発行された宮崎氏の「中国分裂 7つの理由」を改題し、大幅に加筆・修正したものであ
る。

5.「蒋介石が愛した日本」  関榮次著  PHP新書  3月29日

   帯の言葉 : 「私は日本の民族性を愛している。 日本は、私の第2の故郷である。世界のための日中協同
            の夢」

 関榮次氏はこの本で、蒋介石の一生をコンパクトにまとめて記している。今まで私は、蒋介石については、毛沢東
側からしか見ていなかったので、参考になる点が多かった。

 ことに黄埔軍官学校での蒋介石と周恩来の関係について、関氏は次のように書いている。「周恩来は国共合作の
ため蒋介石に服従するよう共産党から指示されていたが、蒋介石の人格・識見に接して、主義・思想の相違を越え
て敬意を抱くようになった。それは終生変わることはなかった。蒋介石のほうも周恩来の能力を高く評価し、のちに
国民党にも彼のような人材がいればと嘆いたと言われる。事実、周恩来は蒋介石に見込まれて軍法会議議長や軍
官学校政治部長、さらに最初の国民党軍の政治部長へと上昇した。側で見ていた陳潔如(蒋介石の2番目の妻)
は、2人はよき友であったと回想している」。この記述を読むと、国民党にも共産党にも想定外だった西安事件を、
蒋介石と周恩来が第2次国共合作という形でまとめあげたことに、納得ができる。なお本書では、西安事件に関し
ての張学良らの行動、宋美齢の気迫に満ちた立ち回りなどの裏話を、詳しく紹介している。

 さらに関氏は宋美齢の米国の政治家ウェンデル・ウィルキーとの艶聞も紹介している。宋美齢は、「もしウェンデル
が大統領になったら、彼と私が世界を治めるの。私が東洋を、ウェンデルが西洋を」と口外してはばからなかったと
いう。彼女は恐るべき女性であったようである。もっとも蒋介石も、この宋美齢の権勢欲と宋家の資産を目当てに、
糟糠の妻とも言える陳潔如を離婚し、打算で宋美齢と結婚したのだから、乗り換えられても文句の言えるような筋
合いではなかったようである。この陳潔如は蒋介石への報われない愛を抱きしめつつ、1971年に香港で他界し
た。そのとき周恩来は、彼女の遺骸を本土に移送する便宜を図ったという。

 関氏は「蒋介石は日本がポツダム宣言を受諾した8月14日、重慶放送局から“抗戦勝利にあたり全国軍民およ
び全世界の人々に告げる演説”を放送した。この演説はのちに、“以徳報恕”演説と呼ばれ、あまりの寛大さで世界
を驚かせ、中国の対日政策の根底となった」と記し、「我々が一貫して叫んできたことは、ただ日本の好戦的軍閥を
敵とし、日本人民を敵とは認めなかったことである」と書いている。