小島正憲の凝視中国

鄂尓多斯(オルドス)で「鬼城」増殖中


鄂尓多斯(オルドス)で「鬼城」増殖中
29.MAR.11
   ―現代中国の縮図か― 

                 

 今、鄂尓多斯(オルドスは、「羊煤土気」のおかげで「揚眉吐気」である。ちょうどこの二つの言葉の発音が同じことから、オルドスの住民は笑いながら、そう語る。オルドスの地で、羊毛・石炭・レアアース・天然ガスが豊富に産出し始め、住民たちは心が晴れ晴れして、意気揚々だというのである。

 たしかに内モンゴル自治区のオルドスでは、2000年ごろからの石炭ブームに乗り、急速に開発が進み、わずか30万人ほどの地方都市がにわかに150万人を越える大都市となった。しかし同時に石炭成金をはじめとして、中国内外の投機資金が集結して、異様なマンションブームを巻き起こし、まさにそこに鬼城を出現させた。しかも現在、増殖中である。この現実を危険視しているメディアも多く、オルドスは中国中の注目の的になっている。私はそのオルドスで、「眉を上げて空っぽのマンション群を見上げ、バブル崩壊後の姿を想像し、吐き気」がした。

@康巴什区の鬼城

 2010年3月、米国のタイム誌が「オルドスはゴーストタウン」という記事で、オルドスを中国の住宅バブルの典型例として取り上げてから、この地は一躍、世界の注目を集めるようになった。オルドス地方は、石炭を始めとする豊富な天然資源を持っており、オルドス市の1人当たり収入は上海に次いで中国第2位であり、1人当たりのGDPは北京や上海を上回っている。もともとオルドスは東勝区という場所が中心であり、30万人ほどが住んでいた。そこに石炭ブームにのって全国から人民が集まり、常駐人口が150万人を越える都市になった。


   東勝区の石炭露天掘り鉱山

 オルドス市政府は活発な市経済を背景にして、東勝区から車で30分ほどの康巴什という地域に、2003年から50億元(現時点では170億元)を投入して、面積32平方キロ、常駐人口100万人の新都市を建設することにした。2006年7月末に、政府系機関が東勝区から康巴什区に引っ越ししたが、多くの公務員はいまだに東勝区に住んでおりそこから通勤している。市政府は2010年末までには100万人を転居させることを計画したが、その時点での康巴什区の常駐人口は28,600人であった。

 2007年までに政府関係の建物、銀行、博物館、映画館、図書館、体育館、展示会場、大学、ホテルなどが完成したが、いずれも開店休業状態である。なによりも林立するマンション群には、だれも入居しておらず、まさに鬼城となっている。初期に建てられた低層マンションには住民の影が見られたが、高層マンションには人影はまったくなかった。地元の人の話では、入居率は10%を切るであろうということであった。それでも市政府関係者は、康巴什区の建設は始まったばかり、最終的には現在の10倍の規模の352平方キロの広さにすると豪語している。


 康巴什区では多数の高層マンションが建設中であった。ちなみにそれらのマンションは1uが7000元ほどの価格(地方の主要都市並み)で、建設途中のものまで含めてすべて販売済みであるという。最近では、マンションの1フロアー分をまとめて買う人や、1棟を丸ごと買う人が出て来ているという。とにかく康巴什区には、すでに立派な広い道路が完成しているが、ほとんど車が走っていない。その道路を車ですいすいと走りながら、多くの奇妙な形の建築物を見て回ったが、街中にはほとんど人がおらず、たまに会って   も道路清掃と公園整備の人たちであった。食堂もまったくなく、とうとう昼食は抜きになった。

 市政府機関
    
 A伊金霍洛鎮の再開発

 康巴什区からさらに西南に車で30分ほど走った場所に伊金霍洛という古い鎮がある。現在、その地が新たに再開発のターゲットにされている。市政府は康巴什区と伊金霍洛鎮の間に200億元をかけて、人工の川を造り山西省の湖から水を引き、川沿いに300棟余の高層マンションを建設中である。この一帯の地下にも、石炭が豊富に眠っており、この地の農民や牧民は立ち退き補償金として1ムー=100万元を手に入れたという。これらの土地は2003年には1ムー=1800元であり、数年で500倍を超える高値となった。まさに農民たちは一夜にして大金持ちになってしまったわけである。ちなみに上海の工業用地でも1ムー=20万元程度である。その結果、そのあぶく銭はマネーゲームに投じられている。

 

Bマネーゲーム

 最近、電力大手の国電電力発展は、オルドス市の大型炭田・東勝煤田の一部である「察哈素煤鉱」(表面面積約156平方キロ)の探鉱権を、同自治区から32億9800万元で取得したと発表した。炭鉱主は市政府から探鉱権や採掘権を買い取り、石炭を掘り出す。オルドス近辺は露天掘りも多く、近年の石炭価格の高騰とあいまって、炭鉱主は大儲けする。探鉱権や採掘権などの収入が市政府の財政を豊かにし、市政府はそれをバックにして農民から土地を高値で買収し、さらにそれを炭鉱主に売りつける。もちろんその過程で、かなりのバックマージンが市政府幹部のふところに入る。その上、市政府は無謀な都市開発を計画することによって、不動産開発業者に土地を売り付け、そこに鬼城を建設させる。炭鉱主、市政府幹部、成金農民たちは、あぶく銭でそれらのマンションを買い漁る。そこに中国中の投機資金が流れ込み、相場をつり上げる。これがオルドス鬼城の背景にある基本的な構図である。 

 さらにオルドスのインフォーマル金融がそれに輪をかけている。オルドスには、現在、質屋、少額担保会社、頼母子講まがいなどの銭荘と呼ばれる私営の金融会社が大小合わせて1000社ほどあり、その総資産額は少なくても300億元、多ければ1000億元と言われている。これらのインフォーマルな金融会社は、年利30〜54%で資金を集め、42〜66%の年利で貸し出している。炭鉱主、市政府幹部、成金農民たちも、ここにこのような会社に投資し、さらにお金を増やそうと企み、マネーゲームに浸かっている。また一部の炭鉱主や不動産開発業者はこのような会社から高利で資金を借り、事業を大々的に展開している。これらのインフォーマルな金融システムが、オルドス鬼城を裏から支えているのである。

 2009年7月、石小紅という銭荘の女性経営者が、利息も払えず、出資金が払い戻せなくなり、警察に逮捕された。石小紅は逮捕されたとき42歳で、ほんの数年前までオルドスカシミヤ紡織工場の一従業員であった。その彼女が銭荘の女性経営者に変身し、2006〜9年の間で、30〜54%の年利で7.4億元の資金を集め、それでマンションや土地を買ったり、株に投資したりしていた。彼女のもとに集まっていた投資者は300人以上にのぼり、その中には石小紅と同様に220人におよぶ人から金集めをしていた者もいた。その人たちは石小紅からしてみれば孫投資者であった。つまり石小紅の銭荘はネズミ講のようなシステムを持っていたということになる。警察は全容を解明するように努力しているが、なにしろ大量の裏金が動いており、被害者が名乗り出てこないということもあって、難航している。

 オルドスでは石小紅は、まだ比較的信用のある銭荘経営者であったという。その彼女が経営に行き詰まり、警察に逮捕されたことから、今、オルドスのインフォーマル金融会社はパニックに陥っており、借り入れも貸し出しも年利が10%ほど下がってきたという。地上に華々しく建設中のマンション群は、地下の銭荘の崩壊によって、一挙に終焉を迎えるかもしれない。そしてそれが中国全土に波及し、住宅バブルの崩壊につながるかもしれない。

まさにオルドスは現代中国の縮図であり、先行指標である。


C成吉思汗(ジンギスカン)も地下で迷惑

 康巴什区から南へ車で1時間ほど走ったところに、成吉思汗陵園(ジンギスカンの陵墓)と名付けられた場所がある。それは立派なもので、その周辺には土産物屋や飲食店が立ち並び、観光シーズンには大勢の人で賑わうという。

 

 蒙古パオに似せて作ったホテルも建っている。しかしジンギスカン本人は、陵墓を作ることを好まず、自分の遺体を砂漠に埋葬させたと伝えられており、どこに埋葬されているかはいまだに謎である。したがってこの陵園は金満オルドス市政府が、勝手にその位置を決め建てたものである。市政府はそのことを恥じてか、パンフレットにはジンギスカンの足跡の公式記録は、この辺りで消えている。だからこの地に陵園を建てたと明記している。地下のジンギスカンもオルドスのマネーゲームに勝手に利用されて迷惑していることだろう。