韓国の知性、新しい時代を語る

韓国の知性、新しい時代を語る第5回


解題 「2010年の試練を踏まえ、常識と教養の回復を」掲載にあたって
 白 楽晴氏の論考を翻訳し掲載のための労をとってくださっている青柳純一氏から、本論稿の掲載にあたり、この間、論稿の掲載が間遠になったことについてのコメントとあわせ「解題」が届きました。
 昨年の「天安艦事件」から一年になります。この「事件」をどうとらえるのか、この間、韓国国内にとどまらず世界的に議論、論争が重ねられてきました。「天安艦事件」が朝鮮半島の南北関係のみならず米朝、中朝関係をはじめ北東アジア情勢に大きな影響を及ぼしたことは言うまでもありませんが、ここに掲載する白 楽晴氏の論考は「天安艦事件」を見据える際にきわめて深い示唆と問題提起を含む重要な論文だと考えます。
 翻訳のみならず、Web掲載について、「世界」編集部をはじめ関係する皆さんへの調整も含め、すべては青柳氏のご尽力に負うものであることを記してこころからの感謝を表します。


 
 「韓国の知性、新しい時代を語る」第5回掲載にあたって                     青柳純一

 諸般の事情から本欄をしばらく休んでいたが、第5回「2010年の試練を踏まえ、常識と教養の回復を」掲載にあたって新たな思いを書きとめておきたいと思う。

 まず到達目標として、今回のような途中休載があろうとも8年後の2019年3・1独立運動100周年をめざしたい。 そのためには、自分自身の健康もさることながら、このホームページ運営者の木村知義さん、白楽晴先生(以下、敬意を込めながら「さん」付けとする)、そして連れあいの青柳優子が健康であることが条件になるだろう。その上で、8年後に今よりは多少なりともマシな東北アジア、あの3・1独立運動の理念が概ね実現化している、平和共存する東北アジアの姿を見たいと思う。つまり、「南北コリアの分断体制」の克服とともに、その「南北コリアと日本との分断体制」の克服(少なくとも8年後には、先日の「前原外相の辞任騒動」に見られる、差別意識の噴出という愚行が批判される日本社会にしたい)が核心的な課題である。

 こうした思いは以前からあったが、昨年の「韓国併合100年」を契機とした日韓市民交流の一方で、3月の天安艦沈没事件と11月の延坪島砲撃事件が起きたことで、その思いは一層強まったといえる。

 そこで、3月から4月にかけて4回にわたって白楽晴さんの論文2本とインタビューをやや変則的な形で翻訳、紹介したい。
 その理由の一つは、論文2本が『世界』2011年3月号と別冊号「新冷戦ではなく、共存共生の東アジアを」に紹介されていることに加え、それへの「追記」も含めて紹介したいからである。
 関心のある方は、ぜひ『世界』3月号と別冊号を参照していただきたい(なお、原文は『チャンビ週刊論評』2010年12月30日号と『創作と批評』2011年春号である)。

 もう一つの理由は、最初に紹介する文章が「天安艦事件」と「延坪島事件」の関連について集中的に考察しているからである。そして、この文章を読みながら、「延坪島事件」の勃発以来、私の中で発酵していた疑問が整理され、「天安艦事件」に対して6:4で「A説」(本文参照)中心の意見だった私自身が、今は8:2でB説を支持するまでに変わったと自覚している。それほど、私にとって説得力ある文章だったので、まずはこの文章から「追記」も含めて紹介していきたいと思う。


 

2010年の試練を踏まえ、常識と教養の回復を
白楽晴(『創作と批評』編集人、ソウル大学名誉教授)
1.はじめに

 韓国社会にとって2010年は、とりわけ試練に満ちた年だったと感じられる。去る11月23日に朝鮮半島の西海で勃発した延坪(ヨンピョン)島砲撃事件から1カ月余りの間、悲しみ、憤怒し、不安を感じることが続いたために、特にそう思うのかもしれない。

 延坪島事件自体、その理由と経緯はどうあれ、南の領土に対する北の意図的な砲撃であり、衝撃と憤怒を抱かせるものだった。さらに、南の初期対応が余りにもお粗末なことに不安を感じ、遅ればせに「全面戦も辞さない」と叫んで危機を煽るやり方はむしろ不安をつのらせ、憤怒までもかきたてた。

 ところで、12月8日には国会で与党ハンナラ党の議員が安保危機の隙に乗じて予算案などの強行採決を敢行した。三権分立と法治主義が完全に踏みにじられ、民主主義の危機という言葉があらためて実感させられた。強行採決の最大の動機は、4大河川事業といわゆる「親水区域法」(注1)という関連悪法の推進だったようだ。これによって自然破壊はもちろん、法治と民主主義の破壊も加速化する展望である。そうかと思えば、政府が誇る迅速な経済回復は、それ自体を疑問視する一部の専門家の見解はさておき、庶民生活の不安解消と雇用拡大を実現できなかった。それどころか、それなりの仕事についている層でも、子どもの養育費や塾などにかかる経費の負担に耐えられず、若者の「出産スト」が続いているあり様だ。

 南北関係では、11月29日の談話で李明博大統領自身が、北朝鮮の自発的な核放棄の可能性を排除したため、「非核・開放・3000」(注2)政策の実質的な破綻を自ら認めたことになる。今や、残された道は戦争か、あるいは日常的に危険を感じつつ北朝鮮が倒れてくれるのを待つしかない。

2.「天安艦」という転換点、そして「延坪島」との関数関係

 延坪島攻撃の背景には累積された南北間の敵対関係があるという点は、誰もが認めている。李明博政権の発足後、緊張状態は時おり起伏を繰り返しながら続いてきた。ところが、その「緊張」が「敵対」へと転換したのは、去る3月の天安(チョナン)艦事件(注3)だった。したがって、今日の状況を正しく判断するためにも、その転換点に戻って冷静に再検討してみる必要がある。正しい対応は、正確な状況認識によってのみ可能だからである。

 延坪島事件後、天安艦への攻撃も北の仕業だろう、という大衆的な情緒が拡散している。同時に、政府発表に疑問を提起する人々が「親北左派」と追及される可能性もひときわ高まった。だが、天安艦の真実自体は大衆の情緒や政治論理によって決定されるものではないはずだ。それはどこまでも事実の領域にあり、理性と論理にしたがって識別されるべき問題なのである。

 天安艦沈没の真相に関しては、不幸にも、未だに科学と理性の検証を経て合意に達した結論は出ていない。いわゆる民間・軍合同調査団の発表は科学界の検証をパスすることができず、他方で外部にいる科学者は資料に対する接近が制約された状態にあって独自の真相究明は不可能だった。したがって、「延坪島」と「天安艦」の関数関係もまだ正解を得ることは不可能である。ただ複数の仮説を立てて、それにそった結論が推定できるだけである。

 分かりやすく、次の2つの仮説を想定してみよう。
 仮説A:たとえ民間・軍合同調査団の発表が矛盾に満ちたものだとしても、北朝鮮の攻撃によって天安艦が沈没したのは確かであるという説。
 仮説B:真相の全貌はともあれ、北朝鮮による天安艦への攻撃はなかったという説。

 仮説Aの場合、延坪島事件は何を物語るのか。まず、天安艦を撃沈した北朝鮮軍が、今回また延坪島を砲撃したのなら、これはまさしく我慢ならない挑発行為である。その上、砲撃によって海軍兵士2名を殺し、何軒かの民家を焼いて、あれほどまでに意気揚々としている連中だから、神出鬼没の手法で天安艦を撃沈し、海軍兵士46名を海の藻屑にする輝かしい戦果をあげたと自慢してもいいはずである。それなのに、絶対やっていないと白を切るとは、そんな政権はほとんど精神異常レベルの犯罪者集団と言わざるをえない。

 また、仮説Aが正しい場合、わが軍の対応も単に安直かつ無能という域を越えてほとんど犯罪的である。北の攻撃によって天安艦を失い、多くの人命が犠牲となって国中、そして国際社会が大騒ぎしたというのに、延坪島攻撃計画を8月に無線傍受しながら、いつものたわごとだろうと無防備なままでやられてしまったというのなら、一体こんな軍隊がどこにあると言うのか。国防相の更迭程度で済まされる問題ではなく、軍首脳部の大々的な改編が行われてしかるべき事態である。

 逆に、仮説Bの場合、韓国軍の対応は多少とも理解できないわけではない。北が天安艦を攻撃しなかったという事実を、少なくとも政府の核心メンバーと軍首脳部は知っていたので、8月に無線傍受した内容を聞いても常習的な脅しに過ぎないと判断したと考えられる。もちろん、そうだとしても重大な判断ミスであることは明らかであり、事件発生当時の無気力な対応に対する責任を問わねばならないが、「こんなの軍隊じゃない」という汚名を被るほどではない。

 仮説Bの場合、北の政権についても、仮説Aの場合とはかなり異なる認識にいたる。南の領土に対する砲撃が、停戦協定と南北基本合意書の違反であり、容認できない挑発である点は変わらないが、彼らなりの緻密な計算を遂行した結果である確率が高まる。南北首脳会談の話まで持ちあがっていた状況が、天安艦の沈没を機に一挙に敵対関係に変わり、国際社会で犯罪者の烙印を押される危機に直面し、各種の大規模な米韓軍事訓練が続く中で、ついに彼らなりの計算された勝負手を打ってきたのである。その結果も一方的な損失ばかりではない。南の国民の人心を失ったことは何よりも大きな損失だが、そうした長期的な考慮は、元来北朝鮮当局の目算では大した比重を占めていない。それよりも内部の結束を強化すると同時に、西海地域を明確な紛争地域として国際社会に刻印するのに成功し、対米交渉において――韓国軍の武力デモンストレーションへの対応自制と平壌に来たリチャードソン知事(ニューメキシコ州)との合意も合わせ――新たな契機をつくったという点を自賛している可能性が高い。

3.2011年、常識と教養の回復を始める年に

 上記の二つの推論のうち、どちらがより妥当とみるかは、各自の所信と良識にしたがって判断すべき問題である。しかし、忘れてならないことは、それがどこまでもAとBという、両立不可能な前提から出発した推理であり、二つのうちどちらの前提が正しいかは、徹頭徹尾事実の次元の問題だという点である。

 もちろん、世の中万事を科学に任せることはできない。例えば、真実究明後の状況にどう対処するかは、科学のみでは決定できないし、科学的真実が無視される状況をどのように突破するかも自然科学以上の教養と実力が求められる。だが、科学の領域を超えてやるべきことはやるにせよ、科学の領域に属する事案において科学の権威を認めることこそ人文的教養であり、自らの生き方の主人たろうとする民主市民が備えてしかるべき要件なのである。

 とまれ、天安艦沈没の原因が魚雷攻撃だったのか、座礁だったのか、機雷爆発だったのか、あるいは座礁後の機雷爆発だったのか、という問い自体はひとえに物理学、化学などの自然科学によって究明されるべきことである。そこには左も右も、進歩も保守もないのである。それでも、この問題が政治論理と思想レベルの攻防戦に巻きこまれたのは、2010年に韓国が経た骨身にしみる挫折の一つであったし、政府や国会、メディアのみならず、私たちインテリ層全般にわたる薄っぺらな教養を露呈させた事件であった。

 しかし同時に、2010年の韓国社会が無教養と没常識で一貫していたわけではなかった。一身上の不利益をも顧みず、真相究明に勇敢に立ち上がった諸個人の献身があったし、彼らに呼応した大勢のネティズン(インターネット利用者)や匿名の科学者がいた。何よりも6・2統一地方選(注4)で、この地の平凡な市民たちは意図的に助長された「北風」(北朝鮮脅威論と、それに基づく対北強硬姿勢)を鎮め、李明博政権に厳重な警告を発したのである。

 ところで、本当に難しいのは天安艦沈没の真実が明らかになった時ではないか。仮説AとBのうち、どちらが真実であっても、私たちが普通考えている以上に、事態はずっと深刻である。Aであっても戦争はダメだという命題は依然として有効だが、犯罪的であるばかりか、予測不能の北朝鮮政府が核兵器まで保有した、この危険千万な事態をどのように管理するのかは、難題中の難題である。反対にBの場合のように、北朝鮮からの攻撃はなかったのに、韓国政府自らがそうした途方もない歪曲と情報操作まで犯したならば、これまたあまりにも困り果てた、危険千万な事態である。事態をとり繕うためのまた別の強引な手段も排除できないし、私たちの手で選んだ政府があまりにも早く、あまりにも深刻なレイムダック現象に陥ることも決して望ましいことではない。一般市民の健全な常識と、保守・進歩の古い枠組を超えた合理的な力量を結合させることによって危機的な局面を収拾し、新たな跳躍を成し遂げるべき時である。

 1987年に民主化を達成して以来の韓国社会は、選挙による政権交代の可能性が開かれた社会であるだけに、2012年の総選挙および大統領選挙との関連を抜きにした「新たな跳躍」は現実性に乏しい。とはいえ、2011年に各界各層において常識と教養の回復を始めながら国政全般の改編を準備することなしには、2012年にも大きな成果を期待することは難しいだろう。何よりも、連合政治[最近の韓国では、政治的協力を意味する政治連合と区別してcoalition politicsの意味で使う]の大切さを確認した統一地方選の教訓を、異なる条件に合わせて生かす知恵が必要であり、そこにはこの間選挙とは無縁に韓国社会のあちこちで成熟してきた新たな気運を必ずや反映させなければならない。4大河川事業に抵抗する宗教界と市民社会の頑張りはまだ政府の方針を変えるには至っていないが、韓国社会の体質を変えてきている。底辺民衆の生存権のための闘いとして、起隆電子の労働者やKTXの女性乗務員(注5)の貴重な勝利が記録されたことも、その外形的な規模だけで判断すべきではない。

 そうしてみると、2010年は挫折も多かったが、成果もまた無視できない一年だった。私自身は、昨年の挫折と成果を踏まえ、新年はいかなる年にも劣らぬ進展があるだろうと夢を膨らませている。


4.追記

 2010年に南北関係が悪化した経緯を顧みると、決定的な契機は3月の天安艦事件だった。その前にも緊張はしていたが、戦争の危険を感じるほどではなく、むしろ南北首脳会談の話が広まるほどの雰囲気だった。私自身も2010年初めの朝鮮半島情勢をして、「紆余曲折を経ながらも対話局面に入っており、朝鮮半島は包容政策が再稼動する時期を迎えた状況にある。李明博大統領でさえ、自らが今年中に南北首脳会談の実現を公然と予想する局面である」(注6)と、多分に楽観的な展望を発表した。これは、執権集団の真剣さの不足や無能さを十分に勘案できなかった軽率な発言だったが、天安艦事件がなければ、「今年中に南北首脳会談」云々が突出発言で終わったにせよ、公然たる敵対関係への転換にはなりにくかっただろう。

 ともあれ、そうした相対的な宥和局面で、北側が天安艦に対する魚雷攻撃を敢行するとか、反対に、南側が初めからこの事件を操作した自作劇を演じたならば、それはどちらの場合であれ、私のような人間は自らの安易な現実認識に対し、極めて悲痛な自己反省をすべきである。しかし、1964年ベトナム戦争拡大の契機になったトンキン湾事件のような緻密な自作劇ではなく、ある種の事件・事故を収拾する過程に様々な要因が複合的に作用し、国防省の調査が真相とは異なる方向へ走りだしたのならば(注7)、これは分断体制に内在する危険性を反芻する理由にはなっても、天安艦の沈没がなくても、2010年の南北関係は必然的に破綻する運命にあったと断定することはできない。

 いずれにせよ、天安艦問題がどのように解決されるかによって、国内政治と南北関係、さらに東アジア全体の情勢は大きく異なってくるだろう。ここでも、「第三当事者」(である韓国の民間社会)の役割が期待され、実際にその役割なしには真相の究明は期待しがたい実情である。

 天安艦事件の真相はどうかによって、延坪島事件に対する理解と対応する姿勢も全く異なってくる。これに関連して私は昨年末、天安艦事件は「北朝鮮の仕業である」(A説)と「北朝鮮の仕業ではない」(B説)という、二つの仮設を立て、どちらが正しいかによって、北の政権の形態や、韓国軍の対応に関して、それぞれいかなる結論が導きだされるかを検討したことがある(注8)。もちろん、A説とB説のどちらが真実に合致するかは、ひとえに科学的に究明すべきことであり、そこに政治的考慮や折衷案が入りこむ余地はない。だが、いまだに科学界が合意した結論がない状態で、二つの可能性をともに検討してみることは意味のある作業である。要約すれば、どちらの仮説が正しいかによって、北の政権が単純に好戦的なのにとどまらず、天安艦の攻撃で延坪島よりはるかに戦果を挙げた時には白を切るのに汲々とする理解不能な政権なのか、あるいは延坪島では明らかに停戦協定に違反した危険な政権だが、それなりに予測可能な分別をもった集団なのか、によって異なってくる。また、韓国政府と軍の場合も、天安艦への攻撃を経ながらも延坪島への砲撃に無防備状態でまたやられた呆れはてた集団なのか、あるいは初動対応は不十分だったが、北の砲撃計画に対する8月の無線傍受による報告(注9)を黙殺したこと自体は起こりうるレベルのミスだったのか、によって全く異なる判断が出るだろう。

 こうした推論を朝鮮半島問題の他の主体についても適応してみよう。例えば米国政府の場合、初めは天安艦沈没と北の関連を否認したが、ある時点から仮説Aの強力な支持者に変わった。これが何か確固たる情報を握ったためなのか、あるいは中国を牽制して韓国や日本から具体的な実利を得るために韓国政府の調査結果に眼をつぶって強硬姿勢に転じたのか、を分かつ根拠になる。

 中国の場合も、天安艦の沈没が北の仕業であることを知りながらも、無条件同盟国をかばうのならば国際社会の非難を浴びても仕方ないが、北の仕業でないならば、その事実を中国もまた知らないはずはなく、韓国政府がそんな中国に対し、「責任ある大国」らしく行動せよと、訓戒調で発言する場合、中国政府としてはどんなに笑止千万だろうか。当面は「冷静と自制」を勧めて大様に対しながらも、別の機会に(同年12月の中国人の不法漁労取締まり事件が起きた場合)はるかに強力に反撃しても驚くことではないし、延坪島砲撃のような北側の明白な挑発行為に対する韓・米の糾弾、ないし憂慮表明の要求さえ、耳の裏で聞く素振りをしたのだろう(注10)。これは当面の韓中関係問題だけではない。朝鮮半島の非核化を進めようとすれば、とにかく中国の適切な対北圧力を含めた「責任ある強国」らしい役割が必須である。だがこれは、(2005年)9・19共同声明当時にも見たように、韓国が米国だけでなく北朝鮮および中国とも信頼関係を結んで能動的な寄与をする場合、中国が北にあまり圧力を加えなくてもいい仲裁者の役割を担うことで可能になる。韓国が米国をカサにして中国に「北朝鮮を強く圧迫してあれこれさせるようにしろ」と責めたてて中国が素直に応じると信じるのは、虚妄な夢に過ぎない。

 ともあれ、「天安艦に加えて延坪島まで」という当局側の仮説は、南北双方で国家主義の威勢を遺憾なく高めてしまった。北は当初から「先軍政治」を標榜してきたのでそうだとしても、天安艦事件以後の南の国防当局や主流社会の行動形態は、国家主義と軍事文化の大々的な強化を生んでいる。我々も先軍政治をすれば、という欲望の噴出ではないかと疑うほどの形勢である。ともあれ、分断体制こそが国家主義、それも悪性の分断国家主義の絶えざる源泉であり、分断体制の解消や少なくとも緩和なしには、韓国社会が後進性と野蛮性を脱皮できないことを実感させられる。

<注>

@「4大河川事業」とは、李明博政権が2008年下半期から韓国内の4つの主要河川で洪水予防と水不足の解消、水質の改善を目的として推進中の大型土木事業である。生態系の破壊を憂慮する[反対運動の理由には、この憂慮に加えて政府が掲げる目標の達成は不可能との判断も含まれる]地方自治体と野党勢力、学界、環境団体、宗教界などの国民的な反対にもかかわらず、工事を強行している。「親水区域法」とは、12月8日国会本会議で与党ハンナラ党が単独で通過させた法案で、4大河川の周辺にレジャー・観光施設を開発するというのが、その要旨[国会の予算審議を避けるため、工事の主要部分を韓国水資源公社に一任し、その莫大な財政負担を補完するため同公社に特恵的な開発権を付与]である。野党勢力と市民団体は、4大河川事業の莫大な費用を回収する狙いがあると反発している。

A「非核・開放・3000」とは、李明博政権の対北政策の核心的基調であり、北朝鮮が核を放棄して開放する場合、10年以内に一人当たりの国民所得が3000ドルになる程度は支援するというものだが、北の核放棄を大前提に掲げ、南北関係を実質的に中断させた非現実的な構想という批判を浴びてきた。

B天安艦事件とは、3月26日に朝鮮半島の西海上のペンニョン島近海で韓国海軍の哨戒艦「天安艦」が沈没したことを指す。この事件によって韓国海軍の兵士40名が死亡し、6名が行方不明になった。李明博政権は民間・軍合同調査団を構成して調査を行い、5月20日天安艦が北朝鮮の魚雷攻撃によって沈没したと発表し、この事件を国連安全保障理事会に回付して対北糾弾決議案を引き出そうとした。だが、中国とロシアの反対により、7月9日北朝鮮の責任を明示しない議長声明の採択にとどまった。

C2010年6月2日の統一地方選挙は、政権後半期を迎えた李明博政権に対する中間評価という政治的意味を帯びた。この選挙で野党勢力は広範な連合政治を形成し、与党ハンナラ党に対して全国的な勝利を収めた。

D起隆電子と韓国鉄道公社(KORAIL)のKTX(韓国の新幹線)の女性乗務員は非正規雇用をめぐる問題の代表的な事例であり、最近4〜5年間にわたる法廷闘争を含む争議闘争を通じて正社員への格上げを要求してきた。その結果、会社との合意が成立したが、その適応は最後まで残った少数の人に限られた。

E拙稿「“包容政策2.0”に向けて」『創作と批評』2010年春号、75頁。

Fこうした可能性を考慮せざるをえなくする様々な論拠については姜泰浩編『天安艦を問う』[チャンビ、2010年]に数多く提示されている。中でも、3月26日事件発生から5月20日中間発表にいたる間の真相調査の流れを細かく時期別に分析した文章として鄭鉉坤「天安艦事件の流れと反転」を参照。

G「2010年の試練を踏まえ、常識と教養の回復を」『チャンビ週刊論評』(weekly.changbi.com)、2010.12.30.この文章の英訳は、The Asia-Pacific Journal: Japan Focusに2011年1月10日付けで掲載された (Reflections on Koreain 2010: Trials and Prospects of Recovery of Common Sense in 2011. http://japanfocus.org/-Paik-Nak_chung/3466)。日本語訳は『世界』2011年3月号に掲載された。

H「北の挑発の徴候、3カ月前から傍受さる」『毎日経済』2010年12月2日。「国家情報院をはじめとする情報当局は、北の延坪島への武力挑発の3カ月前の去る8月から無線傍受を通じて西海五島に対する北の挑発の徴候を把握していたものと1日発表した。元世勲国家情報院長はこの日の国会情報委の全体会議に出席し、『去る8月、無線傍受を通じて西海五島に対する大規模な攻撃計画を確認しなかったのか』という一部議員の質問に対し、『そうした分析をした』と答えたと情報委の幹事である民主党の崔ジェソン議員が伝えた」。

I中国共産党の機関紙『人民日報』の国際専門誌『環球時報』は12月23日の社説を通じ、延坪島事件以後の韓国が繰り返す軍事訓練を批判しながら、「中国はこの間穏便に韓国に諭してきたが、韓国が思い通りに行動して朝鮮半島の平和と安定を脅かすならば、中国は相応する行動を示すべきである」と主張した(『Views and News』2010.12.24. www.viewsnnews.com /article /viewjsp?seq=70477)。