小島正憲の凝視中国

読後雑感 2010年 第3回、第4回


読後雑感 : 2010年 第3回 
26.MAR.10
1.「中国人の金儲け、日本人の金儲けここが大違い!」

2.「変容する中国の労働法」

3.「中国ゴールドラッシュを狙え」 

4.「“文革”を生きた一知識人の回想」

※「2009年読み残した中国関連本―追加」 : 3冊

1.「中国人の金儲け、日本人の金儲けここが大違い!」 宋文洲・田原総一郎著
                                   アスコム刊  2010年3月10日発行

 これは面白い本である。通勤列車の中で立ち読みできるような軽さであるが、中身は濃い。日中のビジネスの相違を話題にしながら、現代の日本人と中国人の本質的差異に鋭く迫っている。田原氏が聞き手にまわっているだけに、宋氏の良さがうまく引き出されている。

宋氏は1980年代に無一文で日本に来て、わずか10年そこそこで大儲けをした。いわば現代華僑である。その宋氏が冒頭で、「日本人と華僑は何が違うかというと、一言で言うと“失敗に耐える力”だと思う。華僑なんて失敗の連続ですよ。もともと国に全部奪われて、命からがら船に乗って出て行った。たどりついた場所で、包丁1本から始めて、失敗を繰り返しながらやっていった。これは私自身も同じですよ」と述べている。これを受けて田原氏は、京セラの稲盛氏の言を引用して、「“失敗とは何か。チャレンジを諦めたとき、これを失敗という”と言った。2〜3回、いや10回失敗しても、それは失敗とは言わない。でも11回目に“だめだ、もうやめよう”と諦めたら、これが失敗なんです」と解説している。たしかにユニクロの柳井社長も「1勝9敗」という本で、宋氏や田原氏と同じようなことを書いている。私も私のビジネス人生を振り返って星取表を点けてみることがあるが、どう贔屓目に勘定してもいつも「3勝10数敗」というところに落ち着いてしまう。つまりビジネスとはほとんどの人が失敗する憂き目に会うものであり、その失敗に耐え、チャレンジし続ける者だけが成功に近づけるということである。

 残念ながら、現代の日本の若者はそのような精神を持ち合わせていないようである。宋氏は、それは日本が「パラダイス鎖国」状態になっているからであると指摘する。つまり日本は高度に成長した資本主義国となり、きわめて住み心地がよく、だれもがその安住の地を捨てて他国に飛び出すようなことを望まなくなったからであるという。そして「今、中国人にやる気があるのは、これは自分が貧乏で不遇で、こんな生活はもう嫌だ。なんとかして抜け出すんだという心の底からの能動性ですよ。だから意欲的なんです。ところがいまの日本人には、そんな心の底からの能動性、わきあがる意欲がもともとないんです。そもそもかなり豊かだし、身の回りに物が溢れている。どうしてもカネを稼いで自分のものにしたいという物があまりない。親の家があって子供が一人なら、家すら買わなくてもよい。…(略)。やる気や意欲は、言われて出るものじゃないんですよ」と語り、田原氏が「たぶんいまの中国は、戦後のある時期までの日本と同じなんですよ。僕自身がそうだった」と付け加えている。これらの意見に私も同感である。私の学生時代には、小田実の「なんでも見てやろう」が流行っていて、私もとにかく日本を脱出して世界に飛躍したかった。残念ながら、カネとチャンスと実力がなかったので日本に居続けざるを得なかった。それでもやっと20年後にその夢を実現することができ、豪州やタイ、韓国、中国の地などでビジネスをすることができ、その延長でいまだに海外放浪生活を満喫しているのである。

 宋氏は、今度は内向き志向で閉塞した日本を見限って、激動し高度成長を遂げる中国にビジネスチャンスを求めて、故国の地で事業を展開しているという。たしかに中国は昨今、「世界の市場」として注目され、経済が沸騰し、多くの中国人がカネ儲けに血眼になっている。現在、中国はバブル経済に突入しており、中国人の間には、だれもが大富豪になれるような幻想が溢れかえっている。かつて日本人も一億総カネ持ち幻想にとらわれたときがあった。(そのとき宋氏もそれを利用して儲けたのである)。しかしそれはあくまでも幻想であって、すべての人が大富豪になれたわけではない。バブルがはじけてみれば、手元に残ったものはほとんどなく、バブルに踊らされた日本人の多くはそれがまさに幻想であったことがわかった。現在、ほとんどの中国人が幻想の世界の中で大富豪を夢見て、能動的かつ意欲的に、金儲けにチャレンジしている。だから私は最近、能動性や意欲などというものは、ハングリー精神と幻想の中から生まれてくるものであり、中国の現在の絶好調経済は、中国政府が中国人に幻想を植え付けることに成功した結果であると見ている。

 今や、日本の若者はどうあがいてみても、カネ持ちになどなれないということはわかっているし、それを望みもしない。やがてバブル崩壊とともに中国人も現実に目覚め、結局、大富豪になれたのは一握りであったことに気がつくのであろう。そのとき、中国社会が安定成長に入っていれば、現代日本の若者と同じく、中国の若者も内向き志向になるであろう。すでに現在でも、一人っ子の若者は海外雄飛などを望まないということも言われ始めているからなおさらである。

 宋氏は「会社でも国家でも、“大”にこだわり出したら危険信号が灯る」と主張しており、田原氏もそれに同調している。つまり大企業病や大国主義がはびこり出し、自滅への道をたどることになるというのである。宋氏はあとがきで、すでに中国はその道を歩みつつあると慨嘆している。これらについてはぜひ、本文の宋氏と田原氏の見解を一読していただきたいと思う。


2.「変容する中国の労働法」  山下昇・ゴン敏編著 ※ゴンは龍の下に共の字
  副題 : 「世界の工場」のワークルール       九州大学出版会刊  2010年1月20日発行

 この本は、中国の労働法をわかりやすく解説している。これまでの中国の労働契約法などの解説書は、条文の解釈が多く読みづらかったが、この本は日本人の目で見て、日本の労働法と比較し、なおかつ随所に実例を盛り込みながら、話を進めているので、法律の素人でもすらすら読める。しかも、さすがに日中の労働法の専門家が書いたものだけに、記述に誤りはない。現在、中国で奮闘中の人も、これから進出しようとしている人も、一読しておいて損はないと思う。

 しかしながら、労働法の研究者たちが書いたものだけに、労働者の側に立った記述が多く、経営者の側から見ると、疑問も少なくない。たとえば、序言で「社会主義市場経済のサポートシステムとしての中国労働法は、多くの困難な状況に直面しており、決して成熟したものといえない状況にある」と書き、そのあとに具体的に5つの状況をあげて、その困難さを説明している。その説明自体はすべて正しいが、私はそれらすべてが労働者側からの状況設定であり、それでは現代中国が抱えている労働状況を把握し尽くすには、不十分であると考える。

 現代中国はいまだに文化大革命以来の人民裁判の伝統を引きずっており、労働者は集団で経営者を吊し上げれば、それが少々法律に違反していても、自分たちに有利な状況を作り出すことができるということをよく知っている。労働契約法施行以後、労働者が権利意識に目覚めたというと格好がよいが、むしろ労働者が徒党を組んで乱暴狼藉を働き、法定基準以上の要求を経営者に飲ませるような事例が目立つようになってきている。さらによほどの暴力行為がない限り、それを労働局や公安が拱手傍観しているという構図にもなっている。私はこの労働契約法の施行が、中国の労使関係を韓国なみの労使対決型に追い込んでしまったと見ている。この結果、中国政府が払う代償はきわめて大きいと考えている。

 プロローグで、筆者は「労働契約法制定からの1年を、“労働契約法の1年”と呼ぶにふさわしい労働立法発展の年である」と書き、「奇しくも“中国労働法の1年”の後、オリンピック景気の後退と世界的な経済不況のあおりを受けて、“世界の工場”と呼ばれる中国でも、深刻な雇用不安が広がるようになった。実際に2009年の春節前後に、経営悪化、倒産に伴う解雇や雇い止め、派遣切りが横行し、労働紛争も増加している。新法は、いま、その真価が問われているのである」と、新法を持ち上げている。しかしながら現実の中国経済はその後、反転して昇竜の勢いで伸びたため、新法の出番はほとんどなかったと言ってよいだろう。またこの本が出版された2010年の春節時点では、中国は空前の人手不足となっており、これまた新法はまったく必要とされなくなっている。ただし新法を悪用する例は数多く見られるようになっているが、その実態は「新法の真価が発揮されている」とは言い難いものである。筆者は労働法学者であるから、これらの経済のダイナミックな動きを捉えきれないのも仕方がないことであろう。

3.「中国ゴールドラッシュを狙え」  財部誠一著  新潮社刊  2010年2月20日発行

 この本の著者は、田原総一郎氏が主宰する「サンデープロジェクト」(テレビ朝日系の日曜日朝10時からの報道番組)の常連コメンテーターである。財部氏はその番組の中で、いつも斬新な切り口で世界各地の情報を送り続けている。

 財部氏はまず第1章で、「なぜ日本にいると中国の現実が見えないのか」と書き、「いずれにしても、日本には正確な海外情報が極端に欠落しており、ほんのわずかなキーワードで一方的に流された偏向報道を、そのままそれぞれの国の全体像であるかのように勘違いしているケースが圧倒的に多い」(P.36)とその理由を解析している。さらに「この点について、先に述べた中国経済危機説を例に具体的に検証していきたい」と論を進め、「政治家や官僚はもちろん、大企業の経営者、ビジネスマンから中堅・中小企業の経営者にいたるまで、圧倒的多数の日本人は“北京五輪危機説”に翻弄された。だが中国に何度も足を運び、中国の通貨制度や中国経済の懐の深さを肌で実感していれば、そのような間違った考えに与することなどあり得なかったにちがいない」と主張し、“北京五輪危機説”を一笑に付し、また「2月危機説が空振りに終わった背景にあるのは、中国経済の規模と政策対応の早さに対する認識不足だ」と断じている。

 たしかに北京五輪後の中国経済崩壊は起こらなかった。この点で財部氏の論は正しいように思える。しかし私が今までになんども指摘してきたように、北京五輪前に中国経済は崩壊の危機に瀕しており、中国政府はそれを回避するために、必死で多くの新政策を打ち出していたのが実情である。そこに金融危機が襲来したので、中国政府首脳は躊躇なく(“破れかぶれ”という表現が正しいかもしれない)4兆元に及ぶ財政出動を決定・実施したのである。だから金融危機に直面し狼狽する他国を尻目に、1周早くグランドを走ることができたのであり、当然のことながら、その効き目も早かったのである。財部氏はこの章で、わざわざ「そもそもバブル経済が崩壊して何が困るかといえば、その国から資本が海外へ逃避してしまうことだ」(P.45)と書き及んでいるが、まさに2007年末には中国で、労働契約法施行や金融引き締めの結果の外資の大量撤退という事態が起きたのである。財部氏はこのことに一言も論及していない。この点を見るだけで、財部氏も中国を正しく認識しているとは、とても思えない。

 第2章で財部氏は、イトーヨーカドー、資生堂、コマツなどの大企業の中国市場での活躍ぶりを描いている。その中で私が注目したのは、コマツの顧客に関する情報であった。財部氏は、「興味深いのは実際にコマツの建機を使って工事を行っている業者の多くが個人請負であることだ。農民や農民工が小さな建設会社で建機の運転を覚えて独立するケースが少なくない。つまりコマツ四川のお客さんは大きな建設会社ではなく、個人ないしは限りなく個人経営に近い零細企業だということだ。彼らが1台で1500万円もするコマツのパワーショベルをローンで購入するのである。そして工事をしながら、毎月、元利金を返済している」と書いている。この記述から、やはり建設業界でも、このような零細独立自営業者が無数に生まれているということがよくわかる。彼らはローンが無理な場合でも、親戚や講などから借金をして、建機を買い求めるにちがいない。そして当然のことながら、これらの個人事業主はもぐり営業を行うので、この実態は統計数値にはほとんど表れてこない。私はこのパワーこそが、中国経済の真の強さだと思っている。

 第3章で財部氏は、上海市と上海万博について、「振り返ってみれば、“東京オリンピック”と“大阪万博”は日本にとって特別な意味を持っていた。それは高度成長の象徴であり、戦後の焼け野原から日本が先進国へ仲間入りした証でもあった。そのプロセスをいままさに中国は辿っている。それは中国が発展途上国から先進国へと向かう通過儀礼といってもいいだろう」と語っている。しかし私は、中国が辿っている道は日本のそれよりも、韓国の“ソウル五輪“から”大田万博“への道に似通っていると思う。(この点についての詳細な論及についての小論を、近日中に書くつもりである)。また些細なことだが、財部氏は文中で、「もちろん、浦東空港から虹橋空港へとつながるリニアモーターカーが世界博覧会の会場に停車するのは言うまでもない」(P.115)と書いているが、これは間違いである。もうすぐ地下鉄2号線が両空港を繋ぐことになる。財部氏はそれをリニアと間違えたのではなかろうか。もちろんリニアの当初の計画では、両空港をつなぎ上海市内を横断することになっていた。しかし周辺住民の電磁波被害に対する抗議があり、計画は2年以上凍結状態にあり、今のところ全く着工しておらず、当然のことながら5月の万博開始に間に合うはずがない。もし住民の反対を押し切って完成しても、地下鉄とのコスト競争には到底勝てず、赤字を垂れ流すことになる。さりとて現状のままでも毎年数億元の赤字が出るという。このリニアモーターカーは朱鎔基前首相の置き土産であるが、なにやら日本の公共工事中止と様相が似ているような気がする。

 また財部氏は、中国は国家債務が少なく、財政力が図抜けていると評価しているが、私はこの点については同意できない。私の現在の力量では財政問題に切り込むことは不可能であるが、少なくとも財部氏のように中国政府の公式発表だけに頼ってこの問題を論じることはきわめて危険であると考える。なにしろ中国は改革開放以来、「世界の工場」を標榜して、天文学的な額の外資を呼び込み、それを背景に成長を遂げてきたのである。そして今度は、「世界の市場」を謳い文句にして引き続き外資を中国奥地まで誘い込もうとしているのである。ある意味では、この外資の額は中国の国家債務として計算されなければならないのではないか。なぜなら多くの外資は、中国に一朝事あれば、またたくまに資金を引き上げ撤退して行くからである。もちろん工場として投資された固定資産を持ち去ることはできない。しかし市場を狙って参入してきた外資は固定資産に投資しているわけではない。彼らが手持ちの流動資産を換金し持ち出すことは、さして難しいことではない。

 財部氏は、「さらにいえば土地所有をめぐる中国の特殊性が財政上、大きな強みとなっていることにも言及しておかなければならない。…(略)。この国有資産を民間に売却したらいったいどれだけの収入になるのか、見当もつかない」と言っている。私もこの点には注目している。中国政府の“最後の切り札”兼“打ち出の小槌”は、ここにあると思っているからである。だがしかし、土地は売れて初めて価値があるもので、外資が中国に見向きもしないようになったら、まさに買い手はなく、宝の持ち腐れとなる。

 第4章で財部氏は、中国の民主化と暴動問題を取り上げ、「戦後、民主主義国となった日本とドイツは、他国が主導する民主主義が成功した数少ない事例だ。…(略)。しかし逆に言えば、日本とドイツが戦後あれほど迅速に民主主義に転換できたのが奇跡的なことなのかもしれない。…(略)。イラクとアフガニスタンのみならず、戦後米国がコミットした民主化政策の多くが失敗、もしくは非常に困難な事態に陥ったことからも、それは明らかだろう」と書いている。私はこの民主主義について、韓国の民主化過程を分析することも重要な学術的な課題ではないかと考えている。財部氏はさらに、「中国は中国共産党が実質的に一党独裁で支配する社会主義国家だ。これに対し米国は、自由や人権など自国の価値観を適用する形で中国の国家体制を批判し、その是正を求めてきた。つまり、外側から民主主義を押し付け、外圧によって中国の民主化を促進させることを狙っているのである。もちろん、中国はそういう米国のやり方に反発を強めている」と続け、「単純な民主化を推し進めれば国家の崩壊につながるだけだという認識が、共産党幹部だけでなく本来なら民主化推進の原動力となるべき中産階級にとっても共通意識となってひろがっていった。そこに中国の特殊性がある」と説く。

 暴動については、「この数年、中国では凄まじい数の暴動が全国で頻発している」と書きながらも、「しかし中国で働く日本人ビジネスマンの中で、こうした地方の暴動が中国の国家体制そのものを揺るがす問題にまで発展するなどと考えている人間に、私はお目にかかったことがない」と書いている。

 最後に財部氏は、高度成長を遂げる中国に対して、「日本人のとるべき態度は二つしかない」と言い、「世界一の経済大国へ変貌していく厄介な隣人に対して、その問題点ばかりをあげつらったり、過去の中国ビジネスで日本企業が味わったネガティブな側面をことさらに強調して、時代遅れのイデオロギーから来る嫌中思想に取り憑かれたままの態度を取ること。もうひとつは、厄介な隣人に食らいつき、その経済的発展を日本の国益や、自社の成長発展に何が何でもつなげていこうという態度だ。言うまでもなく後者を選択するのが賢い生き方である」と結んでいる。

4.「“文革”を生きた一知識人の回想」  朱沢秉著  細井和彦・李青訳
                                      ウェッジ刊  2010年2月25日発行

 この本は、文化大革命とそれに踊り狂った人間の愚かさを、文革の被害者としての父母を、その子である著者が、自らのの生き様を通して、冷静に描いたものである。文革については、すでに多くの回想録や実録が発刊されているが、名もない一介の知識人とその子の実体験記録は、文革の一断面を見るのに最適である。著者の父母が文革の被害者として死を遂げ、自らの青春も文革によって奪われたにもかかわらず、この本には文革に対する激しい恨みや憤りが書き込まれていない。おそらく著者の朱沢秉氏は、この本で文革を告発しようなどという意思はなかったのではないか。ただ人間として、この愚かな行為が二度と繰り返されないようにと願って、父と自分の記録を書き留めておきたかったのではないだろうか。その著者の心情を、姪の李青氏とそのご主人の細井和彦氏が、見事にかつ淡々と訳されている。

 今まですでに、数多くの文革回想録が世に問われている。しかしそれはほとんどが被害者のものであり、加害者のものではない。私は、早く加害者側の見解や心情を聞きたいと念じている。著者は第25章「無実の罪を晴らす」(P.250)で、面白い表現を使い加害者たちを揶揄している。

 「父は20年も無実の罪を着せられて投獄されていた間に、家をなくし、肉親を失い、妻子とは離れ離れになった。僕たちは3年近く名誉回復を訴え続け、日夜待ち望み、心労のあまり疲れ果ててしまった。現在、原判決を取り消す確固とした公文書があるだけであり、どの機関も人も僕たちの面前に顔を出して詫びるということもなく、何の慰めも補償もされなかった。…(略)。僕は多くの悲惨な迫害を受け、遂に名誉回復を獲得した人を見たが、彼らはこの恩徳に感謝し、万歳を唱えていた。組織がそうすべきであるとして、彼らにあのような行動を取らせるよう強制しているかもしれなかった。彼らはやむをえずあのようにせざるをえなかったのか、それとも自発的に喜んでいたのか、知らず知らずのうちにあのような行動をしいられたのだろうか、真相は不明である。いずれの場合であっても滑稽であると僕は思う。

 感謝しなければならないのは、被害者ではなく、むしろ彼らに危害を加えた加害者のはずである。加害者は被害者の忍耐と寛容、寛大さと闊達さ、遺恨にこだわらず前向きであることに感謝しなければならないだろう」

 文革では1千万人を超える被害者=死者が出たといわれている。ならば当然、1千万人を超える加害者が居るはずである。彼ら加害者の感謝の声や、あるいは懺悔の弁を聞くことができるのは、いつの日のことになるだろう。


≪2009年読み残した中国関連本 − 追加≫

24.「中国ビジネス最前線」  ブレインワークス編集部  カナリア書房刊  2009年10月10日発行
   副題:アジアビジネス情報専門誌Sailing Master編集部が注目企業17社のキーパーソンに聞いた!

25.「中国経済成長の壁」  関志雄・朱建栄編  勁草書房刊  2009年10月25日発行
   副題:世界経済の成長を担う中国経済。
   その持続的成長の前に立ちはだかる「壁」を中国はいかにして乗り越えられるか。
   日本経済研究センターと清華大学国際研究センターの共同労作。

26.「中国人から儲ける本」  チャイナ・コンシェルジュ監修  宝島社刊  2009年11月30日
   副題:爆買いする年間100万人の観光客&商用客をつかめ!
     実例ヒント満載 飲食・小売・観光・ブライダル・医療・不動産……国内のさまざまなビジネスにチャンス到来!
     中国人を引き寄せる魔法の言葉とは?





読後雑感 : 2010年 第4回 
30.MAR.10
1.「50万円でインターネットから 中国3億人富裕層と商売する方法」

2.「中国市場で成功する人材マネジメント」

3.「香港に住む大富豪 41の教え」

4.「莫邦富が案内する中国最新市場 22の地方都市」

5.「中国元がドルと世界を飲み込む日

1.「50万円でインターネットから 中国3億人富裕層と商売する方法」  陳海騰著
  副題:「不況脱出の最短コース 洋服、時計、雑貨、フィギア… 身近な品物を宅急便に乗せるだけ!」
                                           講談社刊 2010年2月1日発行

 この本で陳氏は、日本の中小零細企業の経営者や個人に、中国の3億人の富裕層に向け、日本からインターネット販売を行えば一儲けできると提言しており、本書のメーンテーマを「誰にでも小さな投資でできる中国のプチ富裕層=小資へのビジネスアプローチ」としている。

 本書で陳氏は、「現在、中国は経済的にも大きく発展し、“G2”という言葉が証明するように、米国と並ぶ大国へと成長した」と言い、その結果、富裕層が3億人も誕生し、その消費購買力はきわめて旺盛であると主張する。しかも中国では「毒ギョーザ事件」や、「メラミン混入粉ミルク事件」などがあってから、その富裕層などが中国製品を買わず、安全基準の高い日本製品を求めるようになっており、今が日本製品を売り込むチャンスであると言う。そこでインターネット販売システムを使えば、大企業でなくても中小零細企業や個人が日本に居て、中国市場に製品を売ることが可能であると力説する。

 その仕組みを陳氏は、「Webサイトを中国ではなく、日本で開設し、それを日本にある中国向けのショッピングモールに登録する。そうすればそこに中国の購入者がアクセスしてくる」と解説し、すでに日本で運営されている中国向けECモールが「バイジェイドットコム」を始めとして5店舗以上開設されていると言い、巻末でそのうちの数店舗のURLなどを紹介している。その中でも「バイジェットコム」の仕組みは優れており、購入者が1万円以上の購入をすると送料が無料になり、中国の購入者に好評で、彼らからのまとめ買いが結構多いと書いている。

 心配される決済方法なども、中国でのネット販売では、「支付宝(アリペイ)」という決済方法が主流であり、具体的には「ユーザーが銀行口座にアリペイ専用の口座を開設し、商品が手元に届き商品に問題がないことを確認したら引き落としOKの連絡をアリペイに入れる。すると、アリペイから販売店へと支払いが行われる」と説明している。またこの仕組みがアリババグループ(アリペイもこの一部分)の力によって、世界中で使用可能となりつつあるという。 送付方法もEMSやDHLなどがあり、まったく不自由しないと付け加えている。

 私も、たしかにこれは、「世界の市場としての中国」に、日本の中小零細企業が進出する一つの手段であると思う。

 なお陳氏は現在、中国最大のネット検索システム会社である「百度(バイドゥ)」の日本駐在首席代表を務めている。陳氏がこの本を書いているときには、すでに彼の耳にグーグルの中国撤退の情報が入っていたに違いないが、この件の波及効果については本書では言及されていない。

2.「中国市場で成功する人材マネジメント」  町田秀樹著  ダイヤモンド社刊  2010年2月4日発行
  副題 : 「広汽ホンダとカネボウ化粧品中国に学ぶ」

 この本の冒頭で町田氏は、「中国との二人三脚でしか日本の将来は描けない」と無条件で規定し、中国が「世界の工場としての中国から、巨大な市場としての中国という位置づけに変わり、今まで求められてきた人材とは異なる分野の人材を確保し、育成、開発、抜擢、登用していく必要も出てきている」と主張している。また中国における人材マネジメントの成功例として、「広汽ホンダ」と「カネボウ化粧品中国」の二例を引き合いに出している。

 まず町田氏は、「なぜ、日本企業は(中国で)失敗するのか」と問いを発し、その原因が企業の人材マネジメントにあると説き、多くの日本企業が“3R”を知らずに進出していることが問題であると書き、中国における人材マネジメントには、リクルート(採用)、リテイン(引き留め)、リリース(代謝)の“3R”が必須であると力説している。

 次に町田氏は、中国人をやる気にさせるマネジメントとして、まず中国人に接するにはその立場の上下を超えて、「三顧の礼」で接することが前提だとし、その上で新しい“3R”を次のように提起している。「高い専門性を持ったビジネスマンとしても、一人の人間としても、率先垂範することで『やってみせ、言って聞かせて』、リスペクト(尊敬)される。そして人材をリプレース(交替)して、中国人スタッフに『させて(任せて)』みる。さらには彼ら、彼女らが成果として上げたことを『褒めて』、リコグニッション(承認)してあげなければ、『人の心は動かない』。要は、これらの“3つのR”がなければ『人の和』を築けないということである」。

 町田氏は「広汽ホンダ」について、「1998年7月にフランスの自動車メーカー:プジョーが撤退した工場と中国人社員を引き継いで設立された会社なので、当時は事業の失敗でモチベーションがとことん下がった社員を変えることは不可能だと思われていた」と語る。ところがそのような工場をホンダの日本人スタッフが、あえて高いビジョンを示しつつ、ホンダの経営理念を率先して実践し、見事に生き返らせた。中国以外の国では10年以上かかったことが、広汽ホンダではわずか3年でできるようになったのである。その成功の原因を中国側スタッフは「ホンダ哲学は中国の伝統文化と調和性が高い。『基本理念・社是・運営方針』のいずれも中国の古典の価値観と親近性がある。当社で働く中国人はホンダ・フィロソフィーに対して、共感もしている。それを経営陣が口で言うだけでなく、自分たちで実践してきたことにより、ホンダ・フィロソフィーが中国で定着した」と語っている。また広汽ホンダの日本人スタッフは、「困難な目標を達成しようとする意欲と学習能力の高さ、創意工夫する能力の高さこそが中国人スタッフの底力だ」と讃えている。

 私は「広汽ホンダ」の成功の真因は、1998年という進出時期にあるのではないかと考える。もちろんプジョーが撤退した工場を再建するには、日本人スタッフの多大な努力が必要であったことを否定するつもりはない。しかし1998年当時は人手不足が今日ほど深刻ではなく、同時にアコードのような高級車がまだ中国市場には少なかったという事情が、「広汽ホンダ」に大きく味方したのである。人手不足と電気自動車が中国を席巻するこれからが、「広汽ホンダ」の正念場であると考える。

 私は中国の「カネボウ化粧品」には、あまりよい印象を持っていない。なぜなら「カネボウ化粧品」の中国公司は2005年に大きな労働争議を起こし、百貨店などの店頭からいっせいに商品が姿を消すなどの事件があり、マスコミで大きく報道され、中国進出日本企業のイメージを悪くした経緯があるからである。

 あれから5年、町田氏はその「カネボウ化粧品」のコンサルタンティングを引き受け、人事制度を全面的に改訂し、ジョブホッピングの多いビューティ・カウンセラーを定着させ、見事に会社を再生させた。その結果、中国人スタッフが日系成功企業の代表として、経済ジャーナリストの財部誠一氏のテレビ番組に出演するほどになり、その番組の中で財部氏の口から、「上海に拠点を置く日本企業の間では、人を大切にするかつての日本的労務管理こそ中国で成功する最善の策であるという認識が広がっている」とコメントさせるまでになった。ただし同じ日系の化粧品会社「資生堂」の中国展開には、まだ相当遅れをとっているようである。中国における「カネボウ」と「資生堂」の比較を行うのも、面白いと思う。

3.「香港に住む大富豪 41の教え」  大塚純著  かんき出版刊  2010年2月18日発行
  副題:「これからのビジネスと人生が変わる」・「アメリカン・スタンダードからチャイナ・スタンダードへ」

 本書は大富豪になるためのハウツー本である。巷にあふれているその手の本と大差はないが、それでも中には、面白い指摘があり、それなりに参考にはなる。下記に列挙しておく。

・中国市場はいずれ、アメリカに次ぐ買い手になる。ビジネスでは、売り手より買い手のほうが強い。これは世界共通だ。中国は独自のチャイナスタンダードを築き、その正当性を世界に呼びかけるために、中国版のCNNを築いている。

・中国ではいま、おびただしい数の起業家がビジネスを立ち上げている。そして彼らの多くが、これは独自のビジネスモデルであり、他人には真似ができないと信じているようだが、同じようなことを考えている人はたくさんいる。

・過去の成功体験にしがみつくとリスクはとれない。成功体験が投資の邪魔をする。

・中国の最大のリスクは、政治的要因でも、貧富の格差でも、疫病でもなく、中国の過剰ともいえる自信からくるリスクだろうか。かつて、アメリカで「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という本が出版され、日本が世界からほめそやされたことがあったが、今の中国はそれに似ている。結局、日本はあのときがいちばんのピークだった。人間はほめられると驕りが出てくる。アメリカも冷戦が終わって、ダントツの超大国になってから驕りが出てきた。中国も一人っ子政策で、自己中心的な人が増え、驕り高ぶる人間が増えてきているので、長くはない。ただ人口ピラミッドを見ると、まだ10年くらいは成長が期待できる。

・中国政府が人民元を自由化しないもう一つの理由は、中国政府がドル債を中心に投資しているため、自由化で人民元が上昇すると損が出るのを問題にしているからである。

・人口13億の中国が人民元を自由化すれば、今世紀最大のバブルが発生するかもしれない。

4.「莫邦富が案内する中国最新市場 22の地方都市」  莫邦富著
  副題:「見た!聞いた!歩いた! 徹底的な現地取材で得た “明日の星”22都市の市場魅力!」
                                       海竜社刊  2010年2月27日発行

 この本は、中国出身のジャーナリストの莫邦富氏による、今後の中国で大きく伸びてくるであろうと思われる都市、いわば潜在的成長力のある22都市の紹介である。それらは以下の諸都市である。沿海部(9都市)=寧波・南通・楊州・天津・済南・東営・唐山・保定・厦門、中部(9都市)=合肥・蕪湖・長沙・武漢・鄭州・洛陽・ラク河・南昌・九江、西部(4都市)=成都・重慶・昆明・蘭州。

 これらの諸都市の中で意外に思われるのは東営市であるが、莫氏によれば東営市は中国第2の規模を誇る勝利油田を背景にして、一人当たりGDPの都市ランキング第5位を占めており、その消費力に注目すべきだとしている。また莫氏はアナ馬的に河南省のラク河市を挙げているが、ラク河市はアジア最大の食肉加工基地であり、これからの中国内需の大波に乗って大きく躍進するのでないかと推測している。長沙市については、毛沢東・劉少奇・彭徳懐などの生家を訪ねる紅色ツアーや馬王堆、岳陽楼などの名所観光が経済発展を大きく支え、今後、大きな消費市場になるであろうと書いている。蘭州市もまた交通・商業の要衝として、シルクロード観光の中心となっており、その消費力は侮れないという。昆明はASEANとの交流においては重要な玄関口の役割を果たし、気候がよく観光資源も豊富なので、今後、経済が大きく発展し、消費市場として期待できると予測している。


5.「中国元がドルと世界を飲み込む日」  ベンジャミン・フルフォード著
  副題:「日本はG2時代をどう生き残るか」青年出版社刊   2010年4月5日発行

 フルフォード氏はこの本のプロローグで、「私たちはいま、覇権の交代を目撃しつつある」と書き出し、「客観的に見て、返済不能の借金を背負ったアメリカに残された道は計画倒産しかないのだ。そのときドルはデフォルトする。そして米国債を多く抱える国々は非常に大きなダメージを受けるだろう。そんなハードランディングを避けるために、新たな金融システムの構築を探る動きが世界中に進んでいる。その中心にいるのが中国だ。…(略)。ドル後の通貨体制は、私の予測ではコモディティ・バスケット体制となる可能性が高い。コモディティ・バスケットとは、金・銀・銅などの貴金属や鉱物資源、石油、天然ガスなどのエネルギー、レアメタル、穀物、農産物などの多種多様の実物を担保に、中核となる新たな通貨作り出す、これまでとは違う通貨体制だ」と、主張している。

 フルフォード氏はドルの歴史を次のように振り返っている。「第1次世界大戦、第2次世界大戦というふたつの戦争の間、アメリカは世界の工場として生活必需品、食糧から兵器まで、あらゆるモノを作り輸出していた。取引に使われる通貨はドルであり、ヨーロッパへ、アジアへとドルは浸透していった」。しかしアメリカが世界の工場から市場へ、一大消費国へと変化していくにつれて、それまで金とリンクしていたドルではその消費をまかないきれなくなってきた。さらにベトナム戦争などで大量の戦費が必要となり、大量のドルを必要とするようになった。そこでアメリカは無制限にドルを流通させるために金本位制を廃止し、それまでの通貨制度を変更した。アメリカの金融資本家は、アメリカの国力と軍事力を背景に世界中をドルで溢れさせ、重要な決済にはドルを使用させ、輸出国にはドルと米国債という毒を流しこむという戦術を取った。

 日本は戦後の一時期、世界の工場として商品をアメリカに輸出して大儲けした。アメリカは日本から大量に製品を輸入し、大量のドルをばらまいた。双子の赤字を抱えるアメリカは、製品の大量輸入と軍事力を背景にして、日本に大量の国債を買わせることによってそのドルを吸収し、またドル安・円高に為替を誘導することによって、合法的に国債を減価させ、日本への借金を踏み倒した。

 次に世界の工場として台頭してきた中国に対しても、アメリカは中国の生産した工業製品を大量に輸入する代わりに、米国債を大量に買わせ、日本と同じ目に合わせようとした。ところが中国はその手には乗らず、ある程度米国債を購入した時点で、それを逆に米国を揺さぶる交渉の材料にするようになった。またドルが国際通貨の座を滑り落ちることを想定して、ユーロなどの通貨を購入したり、一時的に金本位制が復活することを考えて金などの備蓄に入った。

 そして中国は2008年の金融危機後、アメリカの消費市場が急激に冷え、中国からの輸出が激減する事態を前に、思い切って内需主導型の経済構造に切り替え、世界に先駆けて景気を浮揚させることに成功した。つまりアメリカへの輸出がなくても、成り立つような経済構造への転換に成功したのである。これで中国は米国債との腐れ縁を絶つことが可能となった。

以上のような論理で、フルフォード氏は中国元が、近い将来、ドルと世界を飲み込むと予測する。