社会動態インタビュー

いま、日朝関係と向き合うために−2


木村)中江さんはアジア局長をお務めになる前に日韓条約、国交正常化など、日韓関係にもかかわってこられたわけですが、これは南半分へのものだったと思うのですが、その当時、残りの北半分、つまり朝鮮半島全体を視野に入れた戦後処理をきちんとしなければならないという問題意識は日本の外交にあったのでしょうか。


中江)それは勿論ありました。当時の日韓正常化にむけての日韓交渉の直前だったと思いますが、当時の伊関アジア局長などの考えは、日韓交渉で南半分と正常化するけれども北を忘れているわけではない、北半分は白紙で残してあるのだ、南とは「日韓基本条約」で外交関係ができるけれども、北については白紙なのだから将来、北と交渉して正常化をきちんとすればそれではじめて朝鮮半島南北一緒になって日本との関係が正常化するのだというビジョンはちゃんと持っていたのですね。
で、多くの人にもそういうビジョンがあったはずなんだけれども、あっという間に忘れたのか、あとはもう南ばっかりで、北のことは無視する、白紙で残されているのではなくて無視するという態度に段々変っていったのですね。

そうなった理由は何かというと朝鮮戦争の歴史もあったけれども、要するに冷戦の下で日本がアメリカ陣営に立っていたということがあったと思うんですね。アメリカの意向が北朝鮮のような共産主義の国は相手にしないのだ、支援すべきは韓国とか台湾とかASEANとかという自由主義国としてのアジア諸国であって、日本もそれに協力すべきだという考え方だったし、それはいまもあまり変わっていない。だから日本の朝鮮政策というのは今後もアメリカの意向を忖度しているばかりでは進歩はないと思いますね。


木村)一方では、そうであるにもかかわらず、今回の国連安保理の展開もそうですし、これ以前の北朝鮮とアメリカとの関係をみると、アメリカは自己の国益にもとづいて北朝鮮とも交渉するときは交渉するということで、日本はおいていかれていますね。


中江)それはそうですよ。アメリカにはアメリカのアジア政策があってそれにもとづいておこなっている。しかしなんといっても核保有大国のアメリカですから、どの国もアメリカを敵に回しては損だという、アメリカ一辺倒の姿勢が蔓延しているからそうなるのだと思います。

北朝鮮も、北朝鮮に限らないどこの国だってそうだと思うんですけれども、この地域の問題は日本と話をしてもだめだ、この地域の一番の実力者はアメリカなんだからアメリカと話をしなければだめだとわかっているから、なんだかんだといってもアメリカとは話し合う。しかし日本とは、頭っから話をしない、こいつは「悪いやつだから」相手にしないと、日本に対しては今度もスポークスマンの激しい談話をすぐ出していますよね。六者会談なんか二度と絶対にやらないと言っていますね。ああいう「いじめられている」国の心理というものを日本は理解できていない。だから日本は頼りになる国だと、筋の通ったことを重んじてくれる国だとは思われないという、悲しい立場に追いこめられている。それは日本自身の責任だというべきです。

北朝鮮に対してのビジョンをちゃんと持たなければならない。それは南北がひとつになった時の朝鮮半島のあり方というものを日本は考えなければいけないということだと思います。


木村)そのビジョンは、どういうことを考えるべきなのでしょうか。


中江)これはかつての金丸訪朝団のときには、カネを出してどうこうということで補償の問題を議題にしたようですけれども、カネで解決する発想ではなく戦後処理をちゃんとするということでなければならない。
その戦後処理ということは一体何なのだということをはっきりさせなければならない。それは日本が朝鮮半島をいわゆる植民地化した、台湾と朝鮮半島を「外地」として自分の勢力下に置いた、その結果として相手の国や民族に非常な損害を与え、辱めを与え、ひどいことをした、そのことへの反省を日本はどれだけしたのかということが戦後処理だと思いますね。
だから反省の仕方が足りない、不十分で不明確だと私は思いますね。

小泉訪朝の際の「ピョンヤン宣言」で少しはふれていますが、すぐにそれに逆行するようなことをしているわけですから、不言実行ではなく有言不実行なのですね。そういうことでは戦後処理とはいえない。
戦後処理というからには有言実行で本当に相手の国や民族を踏みにじったことへの責任を痛感して、それを反省してそれを償うためにどういうことをするのか。それには何が大事かといえばおカネよりも心が大事だと思うのですね。心の償いが先なのであって、心の伴わないおカネだけではまったく評価されないのです。

心の伴ったお金、つまり戦後、アジア諸国にいろいろな賠償を払いましたが、賠償にまつわる汚職だとかいろいろな問題がありましたね、田中内閣の金権政治の悪いところだったのだけれども、おカネで人を動かそうというのが間違いのもとで、心の伴わないおカネほど害を残すものはない。
額は少なくとも心があれば相手はある程度理解し、信頼もしてくれるようになる。

しかし日本は国を挙げて心を喪失したんですね、戦後。そしてただアメリカのおかげで経済復興した。それでおカネ、おカネ・・・で、カネに物を言わせるということばかりを考えて、国連などで決議の採択のときなどずいぶんカネを使いますね日本は、無駄なカネを。
日本はこれだけ経済援助したのだから開発途上国は日本を支持しないはずはないと思いあがって、それがいろんな災いを残したことは枚挙にいとまがない。

いま大事なことは、戦後処理の問題でも一番大事なことは、心の問題だと私は思うのですね。

だから何億ドル損害を与えたから何億ドル賠償を払って経済協力すればいいじゃないかという、そういう発想が禍となって田中総理の東南アジア歴訪の際には「反日デモ」が起きましたが、バンコクでもジャカルタでもありましたね、あの時にそれを痛感してその反省の上にできたのが「福田ドクトリン」だったわけですね。

「福田ドクトリン」の第一原則は、経済大国になっても軍事大国にならないと、これは一番大事な日本人の心の問題だと思うのですね。いままではモノとカネが主だったけれども、心と心の付き合いが大事だということが第二原則に出ました。これはやっぱり「福田ドクトリン」というのは、そういう意味では戦後処理を考える上では非常に重要な問題点を指摘していたと思いますね。


木村)心の伴わないおカネは人の心も動かせないという点には深い共感を抱くのですが、では日朝関係で、中江さんのおっしゃる心の問題をどう表していくのか、これは単なる外交技術ではなく、重い課題であり、難しい問題ではないかという気がしますが・・・。


中江)その通りですね。それにはいくつも例がありますね。
まず韓国と国交正常化するときに、南半分とはいえ、そこに住んでいる人たちに対する心の戦後処理が必要だったわけですね。それが具体的には椎名外務大臣の韓国訪問の金浦空港でのステートメントだった。

事務当局が考えた、どこをつついてもボロの出ないような優等生の論文みたいなスピーチではなくて、本当に悪いことをしたと、本当に心から詫びるんだということを、どんなに詫びても詫びすぎることはないのだというぐらいの気持ちが出ているかということが問題で、あのときは椎名外務大臣の金浦空港でのステートメントがあったればこそ日韓正常化が成功したと思うのですね。

というように人間というものは物心両面と言いますが、肉体のほかに精神というものがあるのであって、心の満足感が得られなければ相手は信用しないし、仲良くなれないと思いますね。そいう意味で、心の問題はどうすればいいのかといえば、韓国についての「椎名ステートメント」、中国とのあいだでは、中国には何億という「反日、抗日分子」がいたわけで、その中国相手に国交正常化した、その日中共同声明の精神というものが中国の人たちの心にどれぐらい響いたかということです。

その点で忘れてならないのは周恩来首相の存在ですね。
韓国の場合には周恩来に相当するような人はいなかった。
むしろ朴正熙大統領、その前には反日の指導者と、「反日」というのが政権を維持するための重要な要素でしたね、韓国では。

ところが中国の場合は周恩来がいた。周恩来がいなければ日中正常化はできなかった。中国人に日本人の心の問題を納得させられなかった。周恩来は偉大な人だった。

そいう経験からいえば、日朝正常化をするためには、大事なことは、日本の指導者が北朝鮮の人たちに対する日本の支配、戦争に伴う償いの心の問題をちゃんとわきまえているかということになるわけですね。

ところが小泉総理以来、どの指導者をとっても朝鮮半島、北朝鮮について戦後処理を心の面、心の問題で処理しなければならないという認識を持っている指導者は、残念ながら一人も現れていませんね。

どうすればいいのかといえば、やはり日本の政治指導者の人たちが目覚めるのを待つしかない。目覚めないのであれば、そういう政治家は当選させない、有権者である国民がそれをわきまえて、朝鮮半島について心の償いをすることをわきまえている政治家をみんなが選び出して、そこから最高指導者にちゃんとした人を持つということが必要になるでしょうね。


木村)そうなるとより問題は重いという気がするのですが、ということは国民の朝鮮半島問題に対する認識、あるいは北朝鮮に対する感情も含めて、この問題が非常に大きな要素になる。となるとこれは教育、ジャーナリズム、メディアの責任も重いと思います。しかし現在は、いまおっしゃるような歴史に根差した認識が十分ではないのではないかと思いますが。


中江)それはね、日中国交正常化の例を考えればすぐわかると思いますね。かつて日本がアメリカの手先になって国を挙げて反共の時代がありましたよね。共産主義の南下を防ぐのだ、ドミノ理論、ドミノ倒しになっては困る、だから「中共」といって敵視し、北朝鮮を敵視し、北ベトナムを敵視し、共産主義を敵視した時代がずっとありましたね。

その時に、いやそうじゃないのだと、中国の人たちと仲良く生きなければアジアにおける日本の将来はないのだと唱えて努力した政治家がいなかったかといえばいたのです。
政治家では石橋湛山、松村謙三、そして実業家では高崎達之助とか岡崎嘉平太とか、ああいう人たちがいたんですよ、ちゃんと。今の日本の政治家でそういう人がいるかといえばいないじゃないですか。だれもそういうことを、勇気を持って、たとえば、問題は拉致問題だけではない、われわれは朝鮮民族に対して、まだ負の責任を果たしていないじゃないかとはっきりと言っている人はいないのですね。だからあの国にはもっと一生懸命になって経済協力、技術協力もやって日本とともに栄える国になってもらわなければだめなのだと言っている実業界の重鎮がいるかといえばこれもいないですね。

中国の場合、よく井戸を掘った人を忘れるなというのですが、あのころはまだ井戸を掘った人がいたのですよ、しかしいま、北朝鮮との関係で井戸を掘っている人がいない、掘ろうとしている人もいない。掘ろうとすると「やめとけやめとけ、あんなとこやってもだめだよ」という雰囲気にしてしまったのですね、国全体を。
それはやっぱり小泉総理の時代からそうなってしまった。
いいことをしかけたのですが、悪いことをしてしまったので、悪いことが倍になって、よりマイナス効果になってしまったと思いますね。



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