社会動態インタビュー

ミサイル、核実験後の北朝鮮と世界、日本−2


木村:今何が起きているのかということについて冷静、的確に分析する力がないと、今後何をすべきか、どう対処すべきかについて正しい判断ができないということが、李さんのお話から実によく見えてきますね。

李 鍾元:そうですね、対応策はそこにかかってきますね。

木村:そうなると、米朝関係ですが、アメリカはオバマ政権ができて、ボズワース氏という、これまでも北朝鮮とのかかわりが深くアメリカ政府の北朝鮮政策特別代表に就く直前にも訪朝している、そういう人物を政府の特別代表に据えたところまでは、米朝関係は動くのではないかという一定の期待感もあったのではないかと思うのですね。それがここにきて、米朝関係が動かない、あるいはアメリカの対北朝鮮政策に明確なものが出てこないのというのはなぜなのでしょうか。

李 鍾元:それは一般的には北朝鮮政策の優先順位が低いといったことが言われていますね。たしかに、動きが鈍いのは確かなのですが、私は、まだ確証はなくて完全にわからないところもあるのですが、いまの見立てはですね、5月30日の「朝鮮新報」の解説記事が出ているのですね、朝鮮総連の出している新聞で北朝鮮の立場を解説しているものですから、公式性という意味では完全ではないのですが、その記事を読んでなるほどと思ったことがひとつありました。

その記事をふまえて概括的に言うと、オバマ政権は基本的には対話姿勢だったが、その対話姿勢の中身が北の期待値とは「ズレて」いた、合わなかったということが、今なかなか米朝関係が動かないということだと思います。

オバマ政権は、自らは対話の姿勢を打ち出しているので、はじめ北朝鮮を押しつぶそうとしたブッシュ政権とは違うということなのですが、対話の姿勢を示せば北朝鮮は応じてくるだろうと思っていた、まあ少し安易に思っていたということですね。それこそシリア、ベネゼエラ、キューバ、イラン、みんなアメリカが笑顔を示すと会ったりしていますのでね。

オバマ政権は、基本的には、ブッシュ政権後期のアプローチを踏襲して多国間で臨むということだったのでしょうが、これは6カ国協議を継承するということにもなります。しかし、そのまま継承するのか若干手直しするのかについては米政権内部でもいろいろあって、もう少しコンパクトにして動きやすくするのかというような話はあったようです。ちょっといじる気はあったようですね、オバマ政権には。

いつも六カ国が集まってやるとなると拉致問題が出てなかなか動かなくなったりするので、部会であるとか、もっと自由に動けるように四者のフォーラムであったり、米朝二国間の作業部会であったりと、もう少し動きやすいようにと考えたようですが、依然として、オバマ政権はやはり最終的には多国間のアプローチで、米朝二国間だけに頼る図式は避けたいと。これはクリントン政権のアプローチの反省で、米朝だけで対峙するとアメリカにとっては非常にやっかいだと。多分クリントン政権は大分苦労したと、「枠組み合意」のときも最終的には交渉で北朝鮮に「やられた」というところがありますので、できるだけ米朝二国間で直談判するという比重は下げたいと。

それとブッシュ政権は中国を巻き込もうとした。中国を巻き込むとともに、アメリカからするといずれ一緒に動かざるをえない韓国と日本を巻き込んで一緒にやろうとしたときに、北朝鮮はロシアを入れて六カ国協議になったわけですね。

アメリカはブッシュ政権のときから、二国間交渉の負担に対する反省から、多国間のアプローチ、基本的に中国、日本、韓国をかかわらせる六カ国協議になった。それを基本的には継承する、一定の手直しはするかもしれないがという、それがオバマ政権の考え方だったわけです。

それが北朝鮮からすると、六カ国協議のなかでやるとなかなか進まない。その中で米朝の協議をしたが期待したほどすすまない。となると六カ国協議という多国間のアプローチであるとか中国を介在させるとかいう、遠回りなことをせずに、2012年ということもあるし健康の問題もあるということで、アメリカと戦争終結とか関係改善とか平和協定とかビッグディールを早めにしたいという希望を強く持っていた。

けれども、アメリカは基本的には対話といいながら笑顔ではあるけれども中身は「六者」に戻ってじっくり話をしましょうということで、関係国と協議しながらやりましょうということになる。

となると、北の焦り、余裕のない状況からすると、やはり北の優先順位は低いのかと。
それこそ核を持つパキスタンは政府が崩壊するかどうかという、アメリカからすると本当に大変なことだと、それからすると北朝鮮の脅威は低いと、あるいは北朝鮮の核能力、ミサイル能力はまだ高くないので北朝鮮の核、ミサイルはアメリカにとってまだ差し迫った軍事的な脅威ではないので、まだゆったり構えているのかと。本当に大変だったらアメリカは飛んでくるはずだと。

しかもこれも確証はありませんが、ボズワースさんは非常にベテランの外交官で、駐韓大使やKEDO(朝鮮半島エネルギー機構)事務局長を歴任した、外交官としてはベテランで、大物で、タフネゴシエーターだけれども政治的インパクトは弱い。北が期待したのはおそらく特使としてはキッシンジャーとかクリントン元大統領といった人物を期待していたふしがある。

そうした政治決着できる人選であるとか、あるいは米朝の政治決着ができるようなハイレベルな人選についてのプロポーザルとか働きかけを期待していたふしがあるのですね、北の焦燥感、焦りということからは。
それに対してオバマ政権は、客観的な優先順位は低くて、アメリカから見て北の核問題はやっかいではあるが軍事的には緊急の脅威ではない、ということでゆったり構えている。

しかもオバマ政権は、そもそも対外政策は国際協調主義であるということで、どの政策分野においても関係国との協調で取り組むということをプリンシプルとしていますし、アジア政策では特に中国との戦略的な協調を非常に大事に考えていますので、北朝鮮問題については、そういう意味では大国協調主義的な面がある。

北朝鮮にジワジワと圧力を加えられるのは中国なので、中国を巻き込みながら、その力を借りながら、アメリカの負担を減らしながら時間をかけていくというのがオバマアプローチでもあったわけです。

それがクリントン、ブッシュ以来の米朝交渉を踏まえた北朝鮮政策の多国間のアプローチでもあり、それが結合して、やはり多国間で行こう、六カ国協議で行こうというアプローチになったと思うのです。

しかしそれは北朝鮮からすると相当不満で、結局時間だけが流れるのではないか、時間だけが流れるのはいまの北朝鮮にとっては非常に辛いので、できるだけ時間がゆったり流れることは避ける、できるだけ早く決着をつける。米朝前倒しにするか、それがうまくいかないとなると、それこそ健康問題で金正日総書記が倒れた後に後継者のまだ弱い政権になるとアメリカから揺さぶられた時に早く安定した核抑止力が必要だと思って急いでいる。多分そういうことだと思うのですね。

その意味では、核抑止力と対米交渉が表裏一体になって、両面性があるということになる。
つまりオバマ政権のアプローチが依然として多国間だったので北の期待感とずれていたというわけですね。

5月30日の「朝鮮新報」の記事がそのことをよく示しているというべきです。

まず5月29日に北朝鮮外交部が声明を出しているのですが、そのキーポイントは国連が制裁すれば停戦協定の破棄であると、停戦協定が破棄されれば朝鮮戦争の再開、戦争状態であると、これがポイントです。その翌日の30日の「朝鮮新報」の記事はこの声明を敷衍、説明しながら、朝鮮戦争の再開になると大変なことだといって最後の三段落ぐらいで、これは本音じゃないかと思うのですが、小見出しが「オバマの誤った判断」としている。

何を言っているかといえば、「この危機に際してオバマ政権は六者協議の復元、六者協議の再開という焦点のずれた処方箋を出しているのみであって、停戦協定の当事者間の対決をむしろ激化させるような外交を展開している」としているのですね。

キィーワードは「六者協議の復元」とカギカッコがついているのですが、これは焦点のずれた処方箋だと、六者協議の話ばっかり言っているがこれはちょっと違うんじゃないかと。そして次の段落でより明確に、破たんした「六者協議」、これもカギカッコですが、六者協議が破たんしているという問題、それが目前の課題ではなくて、まだ終わらない戦争、朝鮮戦争、平和協定だという話なのですね。

まだ終わらない戦争、これが課題であると。
外交的アプローチの的、ターゲットを正しく設定しないかぎり状況はねじれるばかりだとしています。

これはもうストレートにですね、つまり米朝で戦争状態にある、彼らの論理では、対峙していて、自分には「核の傘」がないので軍事的な脅威に対抗するためには核開発しなければならない、核抑止力が必要であると。それが核の放棄を求めるのであれば、戦争状態を終結させて、平和協定を結んで、体制の安定を保証して、国交正常化をするというのがスジでしょうと。これが北朝鮮の要求ですね。

そのためには米朝協議が必要でしょうと。それなのにオバマは六カ国協議をと言う。それが、焦点がずれているのだと、そういう話をしているのだというわけです。

それがすべてではないけれども、対米、対外的に言っていることのポイントだと思うのです。

そこがずれているところで、オバマは表面的には対話だと言っているけれども対話の中身が違うと。おそらく北朝鮮としてはオバマ政権に対して、依然として交渉、対話の可能性に期待はつなげながらも六カ国協議のような時間のかかる図式ではなく、しかも中国がかかわるとよりジワジワと真綿で締められるようなことになるので北朝鮮はいやがっているわけですが、そこでアメリカと直談判したいと、それを、強硬姿勢を演出しながら強烈に訴えていると、そういうことだと思いますね。



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