社会動態インタビュー

いま、日朝関係と向き合うために−1


 いま、日朝関係と向き合うために

                 〜中国大使、外務省アジア局長 中江要介氏に聞く〜
2009年5月
社会動態インタビュー企画、第一回は、外務省アジア局長、中国大使などを歴任された中江要介さんです

いま緊張とこう着状態に陥っている日朝関係をどうとらえ、国交正常化問題とどう向き合うべきなのかにつ
いてうかがいました。

日本が朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)と国交正常化交渉を始めたのは1991年のことでした。

以来18年になりますが、いまだに関係の正常化は果たされていません。

とりわけ2002年9月に小泉首相が訪朝し金正日国防委員長とのあいだで、日朝国交正常化の早期実現
に向けて努力することを約束した「日朝平壌宣言」に調印しましたが、北朝鮮側が、日本人の拉致問題を認
め謝罪したことで、日本国内の激しい反発を生みました。

加えて、2006年のミサイル発射、核実験に対して日本政府が北朝鮮への「制裁」に踏み切ったことで両国
の関係は緊張を一層深める状況になりました。

そして今年4月の「ロケット発射問題」で日本政府が制裁措置をさらに強化し、一方の北朝鮮側も日本への
非難を強めるなど、国交正常化への道はきわめて険しいものになっています。

こうした状況に、拉致問題も解決への道筋が見えず、核、ミサイル問題とあいまって、日本と北朝鮮(朝鮮民
主主義人民共和国)の関係を打開する手掛かりを見いだせずに過ぎています。

またアメリカのオバマ政権も、いまのところ、対北朝鮮政策を明確にするところに至らず、米朝関係も停滞、
足踏み状態にあります。

しかし、米国発のいわゆる「金融危機」に端を発する世界的な経済危機が深刻さを増す中、東アジアにおけ
る平和で安定した環境、協力と連携の重要性がますます増しています。

なによりも、冷戦構造を残す朝鮮半島に平和と協力の環境を実現し、未来に向けて東アジアの平和的な発
展をめざすという、歴史的な課題にどう向き合うのかが、いまこそ問われていると考えます。

こうした問題意識に立って、中江さんにお話をうかがうことにしました。

まず中江さんの略歴を記します。


中江要介氏略歴

1922年大阪生まれ。47年京都大学卒、外務省入省。 

71年アジア局参事官、74年同局次長、75年アジア局長。

78年駐ユーゴ大使、82年駐エジプト大使、

84年から87年まで駐中華人民共和国大使、87年退官。

同年原子力委員会委員、91年三菱重工業株式会社顧問、

92年日中友好協会副会長、

同年日中関係学会会長、2005年同会名誉会長。

創作バレエ台本「いのち」「動と静」「浩浩蕩蕩一衣帯水」「鵲橋」執筆。

著書に「中国の行方」「らしくない大使の話」「日中外交の証言」その他。




木村知義
ホームページに「インタビュー企画」のページを設けることになり、その第一弾として中江さんにご登場願うことになりました。まず心からのお礼を申し上げます。
今回の「ロケット発射問題」で北朝鮮に対して、国連の安全保障理事会で「議長声明」が採択され、北朝鮮の今後の動き、朝鮮半島情勢が世界の注目の的になっています。
昨年、中江さんからいただいたメッセージで、アジアをテーマに掲げるなら、いまこそ日朝関係正常化という問題に取り組むべきだという激励を頂戴しました。
この状況の下で、日朝関係の正常化を目指すべきだと力説されるのはなぜなのでしょうか。
まずここからうかがっていきたいと思います。




中江要介さん:以下敬称略)
それには二つの問題があると思います。
ひとつは、朝鮮半島問題について、その現状をどう認識して将来を考えるのかという問題がある。
この点については残念ながらどの国も、国際社会が真剣に考えているとは思えないのですね。
その時その時の出来事に一喜一憂することはあっても、じっくり構えて朝鮮半島情勢をこれからどう運んでいくべきかについては考えられてもいないし、議論もされていないという問題がある。

もうひとつは北朝鮮という国をどういうふうに考えるかという問題があります。
この点でも北朝鮮の将来をきちんと考えている人はほとんどいない状況で、ひたすら北朝鮮を非難し、攻撃して「いじめる」ことばっかり頭にあって、あの国が一つの独立国として北東アジアで普通に付き合っていける国になってゆくために、どうすればいいのかということについてほとんどの国が考えていない。

今回の安保理の「議長声明」にいたる経緯を見ていてもわかるように、国連そのものが国際社会ではなくなっている。パックスアメリカーナの下で国連覇権主義ともいうべき状況なのですね。それがますます昂じていく状況にある。
安保理の常任理事国と日本の間で話し合ってようやくこの「議長声明」が出来上がったと誇っても、いま言った朝鮮半島の将来についての視野もないし、北朝鮮の将来への認識もない。ただひたすら、いまの北朝鮮を非難することに懸命で、非難する度合いが強ければ強いほど、日本はそれに満足している。これは全く逆だと思うのです。北朝鮮を非難攻撃して悪者にして、それこそアメリカが「ならずもの国家」だと言ってイラン、イラクそれに一時はリビア、北朝鮮などを世界の「ならず者国家」ときめつけて満足していたのとおなじような心理状態なのです。これでは北朝鮮のためにもならないし、いわんや朝鮮半島のためにもならない。将来に大きな禍根を残すことになることを、いま、しているということに気がつかないことが問題だと思うのです。

思い出すのは大使としてユーゴスラビアに赴任した当時、チトーが君臨していたのだが、チトーがパルチザンの指導者としてユーゴの解放、自主独立、民族自決の活動をしていたころで、多くの周辺の国はチトーを恐れていたのです。チトーなんかはユーゴで、セルビア人、クロアチア人らと一緒になってバルカンの秩序を乱すそれこそ「ならず者」だとされていた。そのチトーはソ連からもドイツ(当時の西ドイツ)からも左右されずに、非同盟で自分の国を作ると頑張っていたのですが、今度はPLOがテロリストだとかなんだとかいわれて、アラファトがかつてのチトーのように悪者になって、アラファトはけしからん、倒さなければならないと、イスラエル、アメリカなどから指弾された。しかし最後にはアラファトを認めて彼と話し合わなければならないということになった。しかし、話し合いはつかず、結局、パレスチナ問題は未解決のまま数十年続いている。

わたしは下手をすると北朝鮮問題も同じ道をたどるのではないか、いつまでたっても北朝鮮は東アジアにおける「ならず者国家」で、「厄介者」で、あれがいる限りだめだ、あれを倒さなければならないと、みんなが「よろこんでなぶり殺しにする」まるでサンドバッグのような存在になってしまう形になっていくのではないかと危惧するのです。

それは決して朝鮮半島の将来にも、また北朝鮮という国の将来にも何の役にも立たない、むしろマイナスになることばかりを、いま重ねている。

朝鮮半島についていえば、分断されたことに様々な理由があったわけだが、それがどうして元のようにひとつにならないのか、なれないのか、なれるようにみんなで温かく見守っていけないのかということが考えられておらず、反省されていない。

ブッシュ大統領がパレスチナ問題になんの反省もなくアラブに対して非難攻撃ばかりを重ねて「9・11」の同時多発テロというしっぺ返しを食うことになった。それで「これは戦争だ!」と言ってイラクにむかって軍事力で抑えようとしたが、結局抑えられなかった。これと同じような間違いを朝鮮半島で将来犯すのではないかということを本当はみんな心配しなければならないのだが、評論家もジャーナリストも職業外交官もだれもそういうことを懼れず、一緒になって強い決議で北朝鮮を反省させなければならないと息巻いている。

そんなことで北朝鮮を反省させられると思うほうが甘い。今度の安保理を見ていると、世界中の北朝鮮を見る目が間違っている、根本的に間違っていると思う。

それは、繰り返しだが、朝鮮半島の将来をどうするのがいいのかということを忘れているからだ。
もうひとつは北朝鮮を北東アジアのひとつの国としてどう付き合っていくのかということについての見通しを持っていないことだ。
この両面で間違ったことをしている。それで口をひらけば拉致問題、貿易禁止、送金の制限だという。
そういうことを言っていて北朝鮮がわれわれと話し合える国になると思っていることが間違いなのだと私は思うのです。


木村)そうしたことの根底には戦争処理、戦後処理ができていないという問題があるのではないかと考えるのですが。


中江)その通りですね。最近見ていると、日本にはあれだけの戦争をして周囲に迷惑をかけて損害を与えてしまった、その戦争の戦後処理をきちんとして一人前になるのだという初心をほとんどの人が忘れてしまっていますね、日本では。

これまで、どんどん戦後処理をすすめてきて最後に残ったのが北朝鮮なわけですね。ですから北朝鮮との戦後処理をきちんと終わらせれば、アジア地域については、日本は、一応、アジアに損害を与えた責任を償う処理が終わる。そこではじめて日本はアジアの平和と安全についてアジアの国々と話し合ったり提案をしたりする資格ができる。しかしまだその資格がないのですね、日本には。

戦後処理をしないでいて、威張ってものを言っても信用されないのは当たり前だと思う。

その意味で小泉訪朝の「ピョンヤン宣言」は、もし本当にそのようにやろうとしたのであれば重要な一歩を踏み出そうとしたものだったと思う。どういう苦労があったのかはいろいろあると思うが、とにかく日本の総理がピョンヤンに行って金正日総書記と会って共同宣言を出して、そのなかで戦後処理のことも将来のこともうたったのですから。

それを北朝鮮に守れ、守れと言う前に、日本が守るべきだと思うのですが、拉致家族の一部が日本に帰ってきたとたんに忘れて、拉致家族がまだ残っているはずだ、残っている人を返せ、情報が不十分だ、と非難することばかりしているので、日本に対する信頼を失うことも当然だと思うのです。せっかくの「ピョンヤン宣言」もなんのためにあそこまでしたのかわからなくなる。かえってそれが原因で日朝関係が悪くなる。北朝鮮をますます悪者にして、悪者にしないと拉致家族は帰ってこないというようなことを言う。

それは何を根拠にしてそういうことを言うのか。相手の国と話し合いによって問題を解決しようとするときにその相手をいじめて悪口を言って、非難攻撃してならず者にして、それで話し合いができると思っているなら、それこそ「外交音痴」もいいとこだと思うのですね。

そういうふうにもってきた責任はジャーナリズムにもあると思うんですね。

ですから政治家のほうは話にならない、小泉総理自身が自分で出した「ピョンヤン宣言」を守らないのだから話にならない。そいう時にこそ、心ある人たちから、あなたはせっかくあの宣言を出したのだからそれを守ってこうすべきだという議論が国内で出ていいはずなのに逆で、あなたは宣言を出してきたが、相手は悪いやつなんだから、あんなやつはもっと厳しくやらなければ、アメとムチというけれど、ムチでやらなければ、とてもアメなど出してはだめだというようなことに世の中みんながなってしまっている。
そして北朝鮮というと安心して非難するんですね、日本人は。
これは了見の狭い島国根性の、外交センスのない欠点だと思いますね。